Why Japan? · 交通

なぜ日本の電車はこんなに静かなの?

話すのは禁止ではないのに、車内は驚くほど静か。鉄道会社の呼びかけと、見知らぬ人どうしの「暗黙の距離感」が理由です。

A quiet commuter train carriage in warm late-afternoon light, with a few passengers sitting calmly
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本の電車で会話が禁止されているわけではありません。小声でのおしゃべりは普通に受け入れられています。ただ、携帯電話での通話は控えるよう鉄道会社が長年呼びかけていて、多くの乗客がスマホをマナーモード(着信音が鳴らない設定)にしています。

さらに、見知らぬ人どうしがお互いに干渉しないことで車内の秩序を保つ、という暗黙のルールがあります。大声、通話、イヤホンの音漏れは、その「静けさ」を破る行為として嫌われやすいのです。

会話はOK、通話は控える

日本政府観光局(JNTO)は、電車内で小さな声で話すことは問題ないとしながら、電車やバスで携帯電話で話すことは、声の大きさに関係なく一般に嫌われると説明しています。

JR東日本は、関東・東北・甲信越の鉄道事業者37社と表現をそろえ、2015年10月1日から「優先席付近では混雑時には携帯電話の電源をお切りください。それ以外では、マナーモードに設定の上、通話はご遠慮ください」と呼びかけています。車内アナウンスやステッカーでこの内容を目にする機会は多いでしょう。

JR北海道も、話し声だけでなく、着信音やボタンを押すときの電子音も周りの迷惑になるとして、マナーモードにして通話は控えるよう求めています。NTTドコモも、新幹線や電車内ではマナーモードに切り替えて通話を控え、鉄道会社のルールに従うよう案内しています。

ルールは時代とともに変わってきた

かつては「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」と、混雑しているかどうかに関係なく電源を切るよう求めていました。心臓ペースメーカーなどの医療機器への電波の影響を心配したためです。日本経済新聞によると、携帯電話や医療機器の技術が進んで影響が出にくくなったことや、スマホで通話よりもインターネットを使う人が増えたことから、ルールが緩められました。関西では2014年7月からJR西日本など25事業者が先に「混雑時のみ」に変更し、関東などが翌年に続いた形です。

ただし、「通話は控える」というマナーだけはずっと変わっていません。テレビ朝日の報道によれば、国会で「小声での短い通話は認めてもよいのでは」という議論が出たこともありますが、街の声は賛否が分かれていました。短い用件ならいいという人もいれば、一方的に話す声だけが聞こえるのが気になる、という人もいます。

テレビ朝日によると、2023年の民鉄協の調査で、携帯電話の使い方に関して迷惑に感じる行為の4位が「通話の声や着信音」でした。車内での通話をめぐって乗客どうしがもめ、新幹線の運行が遅れる騒ぎになったこともあります。

なぜ通話はそんなに嫌がられるのか

鉄道のマナーの歴史を研究する社会学者の田中大介さんは、通話が嫌われるのは、雑音として耳障りなだけではないと指摘しています。たまたま乗り合わせた知らない人の、個人的な話が耳に入ってくる気まずさがある。個人の情報が聞こえてしまうと、見知らぬ他人としての心の距離を保ちにくくなる、というのです。

田中さんによると、日本の車内の秩序は、何か良いことを積極的にするよりも、迷惑になる行為を避けることで保たれています。私鉄の業界団体、日本民営鉄道協会が2000年代から20年以上続けているアンケートが「迷惑行為ランキング」という形なのも、それを表しているといいます。そのなかで「車内で騒ぐ」「携帯電話の使用」「音漏れ」は、車内の静けさを保つためのマナーだと整理されています。

つまり、日本人が特別におとなしいというより、知らない人どうしが互いに「関わらない」ことで快適さを保つ、という共通の了解があると考えるとわかりやすいでしょう。

外国人旅行者が戸惑うポイント

日本民営鉄道協会の2025年度のアンケート(回答5,202人)では、全体の迷惑行為の1位は「周囲に配慮せず咳やくしゃみをする」、2位は座席の座り方、3位は「騒々しい会話・はしゃぎまわり」でした。なお、この協会は私鉄などの団体で、JRグループの多くは会員ではありません。

同じアンケートでは、回答者の77.1%が訪日外国人旅行者の行為を迷惑に感じたことがあると答え、その中身の1位も「騒々しい会話・はしゃぎまわり」(69.1%)でした。旅行中は気分が上がるものですが、グループでの大きな声は目立ちやすいということです。2位は荷物の持ち方・置き方、3位は座席の座り方でした。

一方で、海外から来た人の見方はさまざまです。テレビ朝日の取材では、カタールやブラジルから来た人が「自分の国では電車で自由に電話している」と話す一方、アメリカ出身の人は「読書もできて良い」と日本の静かな車内を気に入っていました。スペインには通話禁止の静かな専用車両「サイレンスカー」があるそうですが、取材を受けた外国人の一人は、日本の電車はその専用車両と同じくらい静かだと話しています。

「静けさ」は混雑マナーともつながっている

民鉄協のアンケートからは、日本の乗客が何を気にしているかが具体的に見えてきます。座席の座り方では、足を広げる・伸ばす・組む、席を詰めずに荷物を置く、といった行為が挙がっています。乗り降りでは、ドア付近で立ち止まって奥に詰めない、降りる人を待たずに乗り込む、周りの人を押しのける、などです。荷物では、鞄を背負ったままにすることや、濡れた傘の扱いが挙がっています。

どれも「自分のスペースを広げすぎない」「周りの人の流れを止めない」という点で共通しています。静かにすることも、この「他人の領域に入り込まない」という考え方の一部だと考えると、日本の車内の雰囲気がつかみやすくなるでしょう。質問項目も年々増えていて、2019年には咳・くしゃみ、2023年には香水などの強い香りが加わりました。

静かな車内で過ごすコツ

どうしても電話に出る必要があるときは、「今、電車の中なので」と短く伝えて、降りてからかけ直すのが無難です。特急列車や新幹線では、客室を出て出入口付近のスペース「デッキ」で話すのが一般的で、近畿日本鉄道も特急では通話の際にデッキを使うよう案内しています。

乗り降りのときは、ドアの横に並んで降りる人を先に通してから乗りましょう。優先席は、高齢の人、妊娠している人、体の不自由な人などに譲るのが基本です。混んだ車内ではリュックを前に抱えるか、網棚に載せると周りに喜ばれます。

ヒント

  • 電車に乗ったらスマホをマナーモードにしましょう。通話は控え、急ぎの電話は降りてからかけ直します。
  • 友人との会話は大丈夫ですが、声は隣の人に聞こえる程度に抑えましょう。
  • 混雑時は、優先席の近くでは携帯電話の電源を切るよう求められています(関東・関西などの多くの鉄道会社)。
  • 新幹線や特急で電話するときは、座席を離れてデッキへ移動しましょう。
  • イヤホンの音漏れに気をつけ、動画やゲームの音は必ず消しておきましょう。
  • 混んだ車内では、リュックは前に抱えるか網棚へ。ドア付近で立ち止まらず、奥へ詰めましょう。

出典

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