Why Japan? · 暮らし

日本のトイレのたくさんのボタンは何のため?

おしり洗浄、ビデ、乾燥、音消し、呼び出し。操作パネルの絵記号の読み方と、迷わず使うためのコツを解説します。

Illustration of a clean Japanese restroom with a high-tech toilet and a side control panel of buttons
AI-generated illustration

ざっくり言うと

ボタンの多くは、お湯でおしりを洗う「温水洗浄便座」の操作用です。洗う・止める・乾かす・水の量を変える、といった機能が並んでいます。そこに、水を流すボタン、流水音を鳴らす「音消し」のボタン、そして体調が悪いときの「呼び出しボタン」が加わります。

2017年からは業界団体が絵記号(ピクトグラム)を統一しているので、日本語が読めなくても、形を覚えればだいたい見分けられます。いちばん大事なのは、壁の呼び出しボタンを「流す」と間違えて押さないことです。

なぜこんなに多機能になったのか

お湯で洗う便座はもともと日本の発明ではありません。1964年、東洋陶器(現在のTOTO)がアメリカ製の「ウォッシュエアシート」を、伊奈製陶(現在のLIXIL)がスイス製の便器を輸入して売り出したのが始まりで、当初は病院や福祉施設向けの製品でした。その後国産化されますが、お湯の温度が安定せず、やけどをする人もいたといいます。

最初から歓迎されたわけでもありません。1970年代には「便器の広告なんて」と雑誌や新聞に広告の掲載を断られたこともあったそうです。それでも、清潔を好む人が多いことや高齢化が進んだことを追い風に、お年寄りにもやさしい製品として受け入れられていきました。

転機は1980年、TOTOが温度調節を改良した「ウォシュレット」を発売したことです。1982年には「おしりだって、洗ってほしい。」というテレビCMが話題になり、一気に知られるようになりました。1990年代には新築住宅の多くが温水洗浄便座を採用し、オフィスやホテル、駅にも広がります。内閣府の消費動向調査では、2人以上の世帯での普及率が2016年3月に80%を超えました。便ふたの自動開閉、脱臭、自動で流す機能などが次々に加わり、ボタンが増えていったのです。

2012年には、初代「ウォシュレットG」が、新しいトイレの習慣をつくり暮らしに貢献した機械として、家庭用の機械では初めて日本機械学会の「機械遺産」に認定されています。TOTOによると、世界での累計販売台数は2025年までに7,000万台を超えました。

操作パネルの8つの基本ボタン

日本レストルーム工業会(トイレメーカーの業界団体)は、訪日客の急増を受けて、2017年1月に操作パネルの「標準ピクトグラム」8種類を定めました。渦巻きの形は「便器洗浄」、つまり水を流すボタンで、大きな渦が「大」、小さな渦が「小」です。1970年代前半の便器は1回に16リットルもの水を使っており、都市の水不足とともに節水が大きな課題になりました。「大」「小」の使い分けも、水を無駄にしないための工夫の一つです。便器の上に矢印があるものは「便ふた開閉」と「便座開閉」。黒い四角は「止」で、洗浄を止めたいときはまずこれを押します。

おしりの形の下から水しぶきが出ている絵は「おしり洗浄」、座った人の下から水が出ている絵は「ビデ洗浄」(主に女性の前側を洗う機能)、波線3本は温風の「乾燥」です。機種によっては、水の量(勢い)の強弱、お湯や便座の温度、ノズルを前後に動かす「ムーブ」などのボタンが別に付いています。ノズルは使う前後に自動で洗われる機種も多いので、「清潔なのかな」と心配しすぎる必要はありません。

ちなみに、TOTOのウォシュレットでは、はね返ったお湯が周りにかからないよう、ノズルの角度が「おしり」は43度、「ビデ」は53度に設定されているそうです。公共施設の男性用トイレでは、ビデや音消しの機能が省かれていることもあります。

流す場所、音消し、呼び出しボタン

水の流し方はトイレによってさまざまです。タンクの横のレバーを回すもの、壁のボタンを押すもの、センサーに手をかざすもの、便座横のリモコンで流すもの、そして立ち上がると自動で流れるものまであります。トイレットペーパーは便器に流すのが日本のルールで、生理用品などは横の小さなゴミ箱に入れます。

女性用トイレでよく見かけるのが、流水音を鳴らして用を足す音をかき消す装置です。TOTOの商品名「音姫」(1988年発売)が一般名のように使われていますが、1979年にはすでに別の会社が同じような装置を売り出していました。もともとは、音を隠すために何度も水を流す人が多く、水の無駄づかいが問題になっていたことから生まれた節水のための機械です。手をかざす、ボタンを押す、入ると自動で鳴る、のいずれかで、一定時間たつと止まります。

そして注意したいのが「呼び出しボタン」です。気分が悪くなったときに押すと人が駆けつけてくれるもので、公共トイレでは流すボタンの近くにあります。国際規格ISO 19026(日本のJIS S 0026がもと)では、流すボタンをペーパーホルダーの上に、呼び出しボタンをそれと同じ高さで便座の後ろ寄りに配置し、形と色も変えて手で触って区別できるように定めています。

旅行者が驚くこと

初めて日本に来た人がよく驚くのは、便座が温かいこと、近づくとふたが自動で開くこと、そして駅や空港の公衆トイレにまで温水洗浄便座があることです。歌手のマドンナが来日時に「日本の温かい便座が恋しかった」と話したという報道もありました。一方で、日本ではしゃがんで使う和式便器の時代が長く、和式の出荷割合が2割を切ったのは1980年代後半のことです。古い施設では和式トイレや洗浄機能のない便座に出会うこともあるので、すべてが「ハイテク」なわけではありません。

ここまで多機能なトイレは日本独特のもので、海外でも売られてはいるものの、世界的にはまだ広く普及しているとは言えません。また、用を足す音を他人に聞かれるのを恥ずかしがって「音消し」をする習慣も、日本特有のものだといわれます。旅行者にとっては、トイレそのものが小さな異文化体験になるわけです。

迷わず使うためのコツ

座る前に、パネルの「止」と渦巻きの位置を確認しておけば、あわてずにすみます。洗浄ボタンを押しても何も起きないときは、多くの機種がきちんと座っていないと作動しない仕組みになっているためです。水が止まらないと感じたら、立ち上がる前に「止」を押しましょう。

日本に住むなら、自宅の温水洗浄便座は取扱説明書どおりにノズルや便座を掃除すると長持ちします。業界団体の英語サイトでも、ボタンの意味や使い方がイラスト付きで紹介されているので、出発前に一度見ておくと安心です。

ヒント

  • 座る前に「止」(黒い四角)と「流す」(渦巻き)の位置を確認しておく。
  • 流すボタンの近くにある、形や色の違うボタンは緊急用の呼び出しボタン。流すつもりで押さない。
  • 洗浄ボタンは、きちんと座っていないと作動しない機種が多い。
  • トイレットペーパーは便器に流す。生理用品などは備え付けの小さなゴミ箱へ。
  • レバーが見当たらないときは、壁のボタン、手をかざすセンサー、自動洗浄のどれかを探す。

出典

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