なぜ日本の家はリフォームより建て替えるの?
築20年を過ぎた木造住宅は「建物の価値ゼロ」とされがち。その背景には、地震と耐震基準、そして中古住宅市場の独特なしくみがあります。
ざっくり言うと
日本では、木造の一戸建ては築20〜25年ほどで建物の市場価値がほぼゼロと見なされる慣行があり、家を売るときも買うときも「価値があるのは土地」と考えられがちです。さらに、地震のたびに耐震基準が強化されてきたため、古い家は直すより建て直したほうが安心だと判断されることも少なくありません。
ただし最近は国の後押しもあって、中古住宅の売買やリフォームが増え、家の「寿命」も延びてきています。
家が使われる期間が短かった
国土交通省の2009年度版の白書によると、取り壊された住宅が建ってから何年たっていたか(滅失住宅の平均築後年数)は約30年で、アメリカなどと比べて短いとされていました。白書は、高いお金をかけて手に入れた家を短期間で壊すことは、1年あたりの住居費の負担を重くし、解体費用も余計にかかると指摘しています。
一方、内閣府の2024年度の経済財政白書は、取り壊された住宅の平均築後年数が2000年代前半以降、長期的には延びていると分析しています。「日本の家は30年で建て替える」というイメージは、少しずつ過去のものになりつつあります。
「建物の価値は20年でゼロ」という慣行
建て替えが選ばれやすい大きな理由のひとつが、中古住宅の評価のしかたです。国土交通省の資料では、流通市場で戸建て住宅が築年数に応じて一律に値下がりし、築20〜25年程度で市場価値がゼロになる慣行があると説明しています。リフォームをしても値下がりのペースが変わらない、建物があることでかえってマイナス評価になる場合もある、とも書かれています。
内閣府の白書も、売り手と買い手の間で建物の質についての情報に差があること(情報の非対称性)や、住宅の性能が分かりにくいことから、木造一戸建てを中心に建物の価値が早い段階でゼロと評価される慣行があると指摘しています。手入れをしても評価されないなら、お金をかけて維持しようという動機も弱くなります。国交省の資料は、この状態を「維持管理・リフォームを行うインセンティブが働かない悪循環」と表現しています。
内閣府の白書は、中古住宅の値段を「土地」と「建物」に分けて考えています。土地の価値は地価の変動を別にすれば年数で減りませんが、建物の価値は年々下がり、建物の価値がほぼゼロとみなされた時点で、中古住宅の値段は土地の分だけになって下げ止まります。古い家が建ったまま実質的に土地の値段で売られ、買った人がその家を壊して新築する、という流れが生まれやすいのはこのためです。
ただし、この評価も変わりつつあります。内閣府の分析では、中古マンションの価格が下げ止まるまでの年数は2013年と比べて2022年には10年近く延び、1年あたりの値下がりのスピードも年率約5%から約3.5%に緩やかになりました。中古の一戸建てでも、値下がりが止まる築年数は年々延びているとされています。国交省も、基礎や骨組みには性能に応じて20年より長い耐用年数を設定し、適切な補修をすれば価値が回復する、という評価方法への見直しを進めてきました。
地震と耐震基準の強化
日本ならではの事情として、地震があります。建築基準法の耐震基準は1981年6月に大きく改正され、それ以降のものは「新耐震基準」と呼ばれます。2016年の熊本地震について国の委員会がまとめた報告書では、それ以前の旧耐震基準で建てられた木造建築物は、新耐震基準以降のものに比べて倒壊率が顕著に高かったとされています。
同じ報告書では、新耐震基準の中でも、柱と梁などをつなぐ接合部の仕様が明確化された2000年以降の木造住宅は倒壊率が低かったとされています。国土交通省は、旧耐震基準の建物については耐震改修や建て替えを進めるよう求めています。国交省の資料でも、耐震性のない住宅は全国で約900万戸と推計され、「耐震改修だけでなく、耐震性能を向上させるための建替えも重要」とされています。古い家の場合、耐震補強の費用と建て替えの費用を比べて、建て替えを選ぶ家庭があるのはこのためです。
熊本地震の報告書では、被害の大きかった益城町の中心部でも、住宅性能表示制度で最も高い「耐震等級3」の木造住宅には大きな損傷が見られず、大部分が無被害だったとされています。地震の多い国では、家の「新しさ」が安全性と結びつきやすいのです。
中古住宅の割合は欧米よりずっと低い
国土交通省の資料によると、新築と中古を合わせた住宅の流通量のうち中古住宅が占める割合は、2013年時点で約14.7%でした。欧米諸国では約70〜90%とされ、その5分の1から6分の1程度の水準です。住宅投資に占めるリフォーム投資の割合も28.5%と、欧米に比べて小さいとされていました。
内閣府の白書では、中古住宅を買う人の割合は近年増えてきているものの、高めに見積もっても3割程度で、主要先進国の水準(7割以上)を下回っていると分析しています。
白書によると、中古住宅の購入が増えている背景には、建築費の上昇などで新築住宅の価格が上がっていることがあり、特に子育て世代を中心に、より手に入れやすい住まいとして中古を選ぶ人が増えています。国土交通省の2009年度の白書は、住宅の数が1960年代後半から一貫して世帯数を上回っていると指摘していました。家が「足りない」時代から「余る」時代に変わったことで、建てては壊すサイクルを見直す必要が高まっているのです。
変わりつつある日本の住まい
総務省の2023年の住宅・土地統計調査では、空き家は900万2千戸と過去最多、住宅全体に占める割合は13.8%と過去最高になりました。家が余る時代になり、「いいものを作って、きちんと手入れして、長く使う」社会への転換が国の方針として掲げられています。
具体的には、専門家が建物の状態を調べる「インスペクション」(建物状況調査)、長く住める家を認定する「長期優良住宅」制度、中古住宅の欠陥に備える保険などが整えられてきました。内閣府の白書によると、住宅リフォームの受注額は2021年度以降増加傾向で、2023年度には約4兆円規模になっています。国交省の資料でも、既存住宅を選びたい、新築にこだわらないという人が増えていると紹介されています。古い家を買って自分好みに改装する「リノベーション」も、若い世代を中心に身近な選択肢になりつつあります。
ヒント
- 中古の一戸建てを買う・借りるときは、1981年6月以降の「新耐震基準」で建てられたかを確認しましょう。建築確認の日付が目安になります。
- 木造住宅なら、接合部の仕様が明確化された2000年以降の建物かどうかもチェックポイントです。
- 中古物件の購入前には、インスペクション(建物状況調査)を依頼すると、見えない劣化や不具合が分かります。
- 築年数が古い物件は建物の評価が低く、土地の値段に近い価格で売られていることがあります。耐震改修の費用も含めて検討しましょう。
- 空き家が増えている地方では、自治体の「空き家バンク」で安く住まいを見つけられる場合があります。