なぜ日本には山の上にまで自動販売機があるの?
治安、100円玉、ホット&コールド、そして「場所と電気を貸すだけ」の仕組み。富士山頂の自販機は夏だけブルドーザーで運ばれます。
ざっくり言うと
日本の自動販売機(自販機)は、2025年末時点で約259万台あります。硬貨の両替機やコインロッカーなどの「自動サービス機」まで含めると約388万台です。
これだけ増えたのは、治安のよさ、100円玉が大量に出回ったこと、冷たい飲み物と温かい飲み物を1台で売れる技術、そして「場所と電気を貸すだけで置ける」というビジネスの仕組みが重なったからです。富士山頂の自販機は、夏の登山シーズンだけブルドーザーで運び上げられる、かなり特別な例です。
数字で見る日本の自販機
業界団体の日本自動販売システム機械工業会によると、2025年12月末の自販機は2,585,200台。そのうち飲料の自販機が2,178,800台と大半を占め、缶やペットボトルの清涼飲料を売る機械だけで1,975,200台あります。ほかに、カップ麺やアイスなどの食品、たばこ、切符や食券、日用品を売る機械もあります。
実は台数は減り続けています。自動サービス機を含めた数で見ると、ピークだった2000年には約560万台あったとされ、2025年末の約388万台はそこから3割以上少なくなっています。2025年も前年より自販機だけで1.1%、自動サービス機を含む合計で0.7%減りました。コンビニやドラッグストアとの競争、配送コストの上昇などで、自販機を管理する会社(オペレーター)の淘汰が進んでいるとされます。
それでも同工業会は、台数そのものが世界一なのはアメリカ(2012年末で658万台)だとしつつ、人口や国土面積あたりの普及率では日本が世界一だろうと推測しています。
なぜここまで広まったのか
同工業会は、日本で自販機が広まった主な理由として、①治安のよさ、②100円硬貨の大量流通、③切符の自販機の導入、④缶コーヒーとホット&コールド自販機の開発、の4つを挙げています。
歴史は意外に古く、日本初の自販機は明治時代の1888年に俵谷高七(たわらや・こうしち)が考案し、1890年に特許を得たものです。一気に広まったのは1960年代以降で、1967年に100円・50円の新しい硬貨が発行されたことや、国鉄(現在のJR)が都市部の短距離切符に券売機を導入したことが追い風になりました。
そして1973年、飲料メーカーのポッカが機械メーカーと組んで、冷たい飲み物と温かい飲み物を1台で売れる世界初の冷温兼用機を開発し、1号機を高速道路の養老サービスエリア(岐阜県)に置きました。冬でも温かい飲み物を売れる自販機の登場は、国内の清涼飲料市場の拡大に大きく貢献したといわれます。
ただし「治安がいいから屋外に置ける」という説明には異論もあります。欧米で自販機が屋内に多いのは、そもそも雨風にさらされる設計になっていないからだ、という指摘もあり、治安だけで説明できるわけではありません。
「場所と電気を貸すだけ」という仕組み
もう一つの大きな理由は、置く側の負担がとても小さいことです。大手のコカ・コーラ ボトラーズジャパンは、自販機は飲料会社が所有したままで、設置する側はスペースと電気を提供するだけ、初期費用や設置費はかからないと説明しています。売れた分に応じて販売手数料(リベート)が支払われ、商品の補充、空き容器の回収、清掃、故障の修理も飲料会社側が行います。在庫は遠隔システムで見ているそうです。
つまり、空いたスペースと電源さえあれば、店でも駐車場でも「置いてみよう」と思いやすいのです。ただし、どこでも置けるわけではなく、据え付けの基準や安全性、景観、法令などを確認したうえで決まります。飲料会社どうしで置き場所を取り合う競争もあり、その結果として、街のあちこちに自販機が並ぶ風景ができあがりました。
ちなみに一般的な飲料の自販機には、缶飲料なら500本ほどが入ります。缶やペットボトルの清涼飲料だけを売る自販機なら、設置に特別な許可はいりません。一方、カップ式の自販機は食品衛生法の許可が必要で、その条件の一つが屋内への設置です。屋外でカップ式の自販機を見かけないのはこのためです。
富士山頂の自販機はこうして置かれる
「山の上にまで」の代表例が富士山頂です。コカ・コーラ ボトラーズジャパンによると、毎年7月の登山シーズンに合わせて、業務用のブルドーザーで自販機を山頂まで運びます。片道約2時間の激しい揺れの道のりで、営業担当の社員も一緒に乗って行き、8月中旬から下旬ごろには撤去します。
富士山は世界文化遺産なので、この自販機は周囲の景観に合わせて茶色に塗られています。いちばん売れるのは水ですが、真夏でも山頂の気温は0~10度未満なので、温かい缶コーヒーなども多くそろえているそうです。
景観への配慮は富士山だけではありません。業界団体は、景観の調和が求められる地域向けに、落ち着いたベージュ系の「景観対応推奨カラー」を定めています。世界遺産の石見銀山(島根県)では木目調の外装の自販機も使われています。
旅行者が驚く、自販機のもう一つの顔
日本の自販機は、飲み物を売るだけの機械ではありません。2005年からは、飲料の自販機に設置場所の住所を書いたステッカーが貼られています。全国の消防長の組織が業界に依頼したもので、緊急通報のときに今いる場所を伝えられるようにするためです。
災害時には、自治体と設置業者の協定に基づいて中の飲み物を無料で出せる「災害対応型」の自販機もあります。伊藤園は、停電してもキー操作やハンドルを回すことで電気を起こし、飲み物を無償で提供できる機種を紹介しています。
年齢制限のある商品にも仕組みがあります。たばこの自販機は2008年から、成人向けICカード「taspo(タスポ)」がないと買えなくなりました。屋外の酒の自販機は、運転免許証などで年齢を確認できる機種への置き換えが進められています。
温度の目安もあり、同工業会によると、冷たい缶はおよそ5℃、温かい缶はおよそ55℃で売られています。真冬の駅のホームで温かい缶が買えるのは、この冷温兼用の仕組みのおかげです。
「24時間光っていて電気がもったいない」と感じる人もいるでしょう。同工業会によると、最近の屋外の自販機は明るさセンサーとタイマーで昼間は照明を消し、夜だけ点けています。1995年からは、夏の午前中に商品を冷やしておき、電力需要がピークになる午後は冷却を止める省エネ型の自販機(エコベンダー)も導入されています。照明のLED化も進んでいます。
ヒント
- 今は交通系ICカードなどの電子マネーで払える自販機が主流です。電子マネーの場合は、先に商品ボタンを選んでからカードをタッチします(現金は先にお金を入れます)。
- 自販機の横の回収ボックスは空き缶・ペットボトル専用です。ほかのゴミを入れるのはやめましょう。
- 緊急通報で自分の居場所がわからないときは、近くの飲料自販機のステッカーに書かれた住所を読み上げると伝えやすくなります。
- 富士山頂の自販機は、例年7月の設置から8月中旬~下旬ごろの撤去までの期間限定です。頼りにしすぎず、水は自分でも持って登りましょう。
- たばこやお酒の自販機は、成人向けICカードや身分証による年齢確認の仕組みが付いています。夜間(23時~翌5時)は販売を止めている機械もあります。