Why Japan? · 暮らし

なぜ日本人は風邪でなくてもマスクをするの?

花粉症、うつさない気づかい、100年前の流行病、そして安心感。マスクが日常の風景になった理由をひもときます。

Illustration of commuters, some wearing white face masks, waiting on a Japanese platform in spring
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本でマスクをしている人は、必ずしも病気ではありません。いちばん大きな理由の一つは花粉症で、林野庁によると国民の約4割がかかっているといわれます。そのほか、混んだ電車で風邪やインフルエンザをもらわないため、せきが出るときに周りにうつさないため、寒さをしのぐため、と理由は人それぞれです。

マスク姿が珍しくない社会は、100年ほど前の感染症の大流行から少しずつ形づくられてきました。新型コロナの後は、2023年3月から着けるかどうかは「個人の判断」が基本になっています。

始まりは100年前の「スペインかぜ」

日本でマスクが一般の人に広まったきっかけは、1918年(大正7年)から世界的に流行したインフルエンザ、いわゆる「スペインかぜ」だといわれます。明治のころにも「呼吸器」と呼ばれる道具はありましたが、このときマスクの着用が勧められ、陸軍の兵士や警視庁の警察官が率先して着けたことで市民に広がりました。1927年にインフルエンザがはやった際にも、当時の内務省がマスクの使用を勧めています。

とはいえ、最初から受け入れられていたわけではありません。読売新聞の1920年1月10日の記事は、東京の女学校が教員も生徒もそろってマスクを着けることにしたと伝え、「美人の怪物が近く市中に出現」と冷やかしています。それほどマスク姿は奇妙に見えたのです。同じ月には、針金と布、ガーゼで作る手作りマスクの作り方も紙面で紹介されました。こうして、風邪の予防としてのマスクは、特に学校で定着していきました。1955年の小学校の給食の写真にも、白い布マスクを着けた配膳係の子どもたちが写っています。

花粉症と感染症の流行が「日常」に変えた

戦後、マスクがさらに身近になった大きな理由が花粉症です。日本の山にはスギやヒノキが多く植えられており、1980年代以降に花粉症の患者が増えると、春先にマスクで通勤する人の姿は毎年の風景になりました。林野庁は、花粉を多く飛ばすスギ・ヒノキの林を、花粉の少ない森に植え替える対策を進めています。

2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行で予防の意識が高まり、2009年の新型インフルエンザの流行ではマスクが売り切れる騒ぎも起きました。このころまでに、「かからないため」にマスクを着ける習慣が都市部で定着したと考えられています。価格が下がり、100円ショップでも箱入りのマスクが買えるようになったことも後押ししました。

こんな逸話もあります。2011年の東日本大震災の後、海外メディアが東京の通勤風景を「放射線を恐れてマスクをする日本人」と紹介しました。しかし実際には、ちょうど花粉の季節で、毎年と同じ光景だったのです。

コロナ後のルール:いまは「個人の判断」

2020年初めに新型コロナの流行が始まると、日本でもマスクの買い占めが起き、深刻な品不足になりました。不織布マスクの多くが中国で作られていて輸入が大きく減ったためで、家電メーカーのシャープが工場でマスクを作り始めるなど、ほかの業界からの参入も相次ぎました。2021年には、マスクの性能を測る試験方法が日本産業規格(JIS T 9001)として定められています。

新型コロナの流行中、日本では屋内での着用が原則とされていました。厚生労働省は2023年3月13日から、マスクを着けるかどうかは「個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本」と改め、本人の意思に反して着け外しを強いないよう求めています。

ただし、医療機関を受診するときや、高齢者施設などを訪ねるとき、通勤ラッシュのような混んだ電車やバスに乗るときは、着用が勧められています。また、お店や施設が感染対策などの理由で利用者にマスクを求めることは認められています。病院の入り口などで「マスクの着用をお願いします」と書かれていたら、それに従いましょう。

症状がある人や検査で陽性になった人には、外出を控え、通院などでどうしても出かけるときは人混みを避けてマスクを着けるよう呼びかけられています。子どもについては、健やかな発育の妨げにならないよう配慮が大切だとされています。

「安心するから」という理由も

マスクの理由は、健康面だけではありません。マスクを研究する専門家は、化粧をしていない顔を隠すため、あるいは着けていると安心するから、という理由で着ける人もいると話しています。病気でもないのに常にマスクを着ける人は、「伊達(だて)マスク」と呼ばれることもあります。ファッションとして楽しむ人がいる一方、人前で顔を見せることへの不安をやわらげる道具にもなっているようです。JNTOも、アレルギーからニキビを隠すためまで、理由はさまざまだと紹介しています。もちろん、すべての人がそうだというわけではありません。

海外との感覚の違いもあります。読売新聞のコラムによると、欧米の多くの国には、正当な理由なく公の場で顔を隠すことを禁じる法律があります。そうした国では、健康な人がマスクをするのは「変わったこと」どころか「怪しいこと」と受け取られがちです。日本でマスク姿を見て驚く人が多いのは、この前提の違いも大きいのでしょう。

文化の中のマスク

マスクは日本の文化にも顔を出します。俳句では「マスク」は冬の季語で、寒さや風邪を防ぐために着けるものを指します。同じ形のマスクでも、花粉症対策のものは季語として扱わないというのが面白いところです。戦前には「竹の花が咲くとはやり風邪がはやる」という言い伝えがあり、そんなうわさが出るとマスクを着ける人が現れたといいます。物理学者で随筆家の寺田寅彦は、街には「マスク人種」と「非マスク人種」がいる、と書き残しました。100年前から、マスクをする人としない人が同じ街にいるのは、日本ではおなじみの光景だったのです。

旅行者・住む人へのアドバイス

日本でマスクは義務ではないので、健康なら着けなくても問題ありません。ただ、せきやくしゃみが出るときは、マスクを着けるのが周りへの気づかいとされています。JNTOも、そうした症状があるときは着用するのが礼儀だと紹介しています。マスクはコンビニやドラッグストア、100円ショップで手軽に買えます。

春に来日する人や日本で暮らす人は、花粉の季節があることも覚えておきましょう。くしゃみや鼻水、目のかゆみが続くときは、ドラッグストアで相談したり、病院で診てもらったりするとよいでしょう。

ヒント

  • せきやくしゃみが出るときは、マスクを着けて電車やお店に入る。
  • 病院や高齢者施設ではマスクを求められることがある。入り口の掲示に従う。
  • マスクはコンビニ、ドラッグストア、100円ショップで買える。
  • 春先に目のかゆみやくしゃみが続いたら花粉症かも。花粉用のマスクや薬を試してみる。
  • マスクを着けていない人を注意したり、着けている人を不思議がったりしない。着けるかどうかは個人の判断。

出典

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