Why Japan? · 暮らし

なぜ日本の小さな子どもは一人で電車に乗れるの?

ランドセル姿の小学生が一人で電車に。その背景には、治安だけでなく通学の仕組みと「地域で見守る」習慣があります。

A small schoolchild with a square backpack waiting alone for a train on a spring morning platform
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本では、小学校に入ると子どもが大人の付き添いなしで通学するのが一般的です。多くは近所の公立小学校に歩いて通いますが、都市部で私立や国立の小学校に通う子どもは、電車やバスで一人で通うことになります。

それができるのは、犯罪が比較的少ないことに加え、歩行者を優先する道路環境、通学路での見守り、困ったときに頼れる大人や場所が地域にあることなどが重なっているからです。ただし、日本の子どもの行動の自由も、親の世代よりは狭まっていると指摘されています。

世界が驚いた「6歳の電車通学」

2015年、日本の私立小学校に一人で電車通学する6歳の女の子の動画がアメリカで話題になり、複数の海外メディアが取り上げました。NewSphereによれば、北米では一定の年齢以下の子どもを一人で歩かせたり車に残したりすると、保護者が逮捕されることもあり得るため、驚きが大きかったといいます。

2022年には、日本テレビの長寿番組「はじめてのおつかい」(1991年放送開始、幼い子どもが初めて一人で買い物に行く様子を追う番組)がNetflixで「Old Enough!」として世界配信され、アメリカの主要メディアが次々と取り上げました。nippon.comによると、タイム誌は、日本は犯罪率が非常に低く、銃規制も厳しいことが、こうした番組が成り立つ理由の一つだと紹介しています。

同じ記事によると、アメリカではイリノイ州で14歳未満、オレゴン州で10歳未満、メリーランド州で8歳未満の子どもを一人で留守番させることが法律で禁じられています。一方、日米両方に住んだ経験のある作家クリスティン・グロスロー氏は、日本では小学校入学と同時に一人で通学することが子どもに期待されている、とニューヨーク・タイムズに語っています。

背景1:通学を「子どもだけ」でする仕組み

日本の多くの小学校では、ランドセル(小学生用の背負いかばん)を背負った子どもたちが、保護者の付き添いなしで登下校します。地域によっては、近所の子どもが決まった場所に集まり、最上級生がリーダーとなって一緒に歩く「集団登校(しゅうだんとうこう)」も行われています。

集団登下校が広まったのは、交通事故が急増して「交通戦争」と呼ばれた昭和30年代(1955〜64年ごろ)以降です。1961年には国の交通事故防止対策を受けて、文部省(当時)が交通事故防止の通達を出しました。つまり、子どもだけの通学は放任ではなく、安全のために組み立てられた仕組みでもあります。

こうして歩いて通う経験を積んだうえで、私立校などに通う子どもは電車通学に移ります。JR東海などの運賃ルールでは、小学生は「こども」として大人の半額です。小学校入学前の「幼児」は大人に同伴されれば無料ですが、幼児が一人で旅行する場合は子ども運賃が必要になります。

背景2:地域全体で見守る

警察庁の白書によると、警察は通学路や登下校の時間帯のパトロールに力を入れ、退職した警察官を「スクールサポーター」として学校に派遣しています。小学校では、危険な場面での対応を子ども自身に考えさせる防犯教室も開かれています。

街で見かける「子ども110番の家」のステッカーは、危険を感じた子どもが駆け込めば一時的に保護し、警察に通報してくれる家や店の目印です。警察はこうしたボランティアにステッカーやマニュアルを配って支援しています。

日本の若者を研究した文化人類学者のドウェイン・ディクソン氏は、日本の子どもは早い段階で、地域の誰にでも助けを求めてよいと学ぶ、と分析しています(NewSphere経由)。子どもの独立は「一人で何とかする」ことではなく、「困ったら周りを頼れる」ことに支えられている、という見方です。

背景3:歩行者にやさしい街と、頼れる場所

nippon.comが紹介したニューヨーク・タイムズの記事は、日本では歩行者が優先され、交差点の多い路地では車がゆっくり走りがちだと指摘しています。先ほどの国際比較でも、子どもの行動の自由を最も左右するのは交通環境だとされており、歩いて移動しやすい街のつくりは大きな要素です。

もう一つの支えが交番(こうばん、街角にある小さな警察の詰め所)です。全国に6,000か所以上あり、原則24時間、警察官が交代で勤務しています。道を尋ねる人も多く、子どもにとっても「困ったら行ける場所」として身近な存在です。駅にも駅員がいるため、電車通学の子どもは、乗り間違えたときなどに大人に助けを求めやすい環境にあります。

日本は特別なのか?

実は、子どもが一人で移動することが珍しくないのは日本だけではありません。英国の政策研究所(PSI)が2015年に発表した16か国の国際比較では、日本も対象国の一つでしたが、ほぼすべての指標で最も自由度が高かったのはフィンランドでした。この調査では、子どもの自由を左右する最大の要因は「交通」で、見知らぬ人への不安の影響は比較的小さいとされています。同じ研究シリーズでは、イングランドで1971年に10歳未満の子どもの55%が歩いて行ける範囲に一人で出かけることを許されていたのに、2010年にはほとんどいなくなったことも示されています。子どもの自由は、国の性格というより、時代や環境によって大きく変わるものなのです。

nippon.comが紹介したNPRの記事でも、メキシコやヨーロッパ各国では子どもだけで買い物や通学をすることは特別ではないとされています。また、全国調査を行った日本の研究者は、子どもの移動の自由は都道府県によって差があり、どの項目でも親の子ども時代より狭まっていると報告しています。

警察庁によると、13歳未満の子どもが被害者になった刑法犯は2002年以降減少傾向にありますが、ゼロではありません。「日本は絶対に安全」ではなく、仕組みと見守りでリスクを下げている、と理解するのが実態に近いでしょう。

旅行者・在住者が知っておきたいこと

朝の通勤時間帯に、制服姿の小学生が一人で乗り換えをしていても、日本ではごく普通の光景です。迷子と決めつけて声をかける必要はありませんが、泣いていたり困っていたりする様子なら、駅員に知らせるのが確実です。

日本で子育てをする場合も、いきなり一人で電車に乗せるのではなく、まずは親子で何度も同じ道を歩き、困ったときに駆け込める場所(交番、駅の窓口、「子ども110番の家」)を一緒に確認するところから始めるとよいでしょう。

ヒント

  • 混雑した車内では、小さな子どもが乗り降りしやすいよう、ドア付近で少し道を空けてあげましょう。
  • 困っている様子の子どもを見かけたら、自分で連れて行くより駅員や交番の警察官に知らせるのが安心です。
  • JRなどの鉄道では、小学生は大人の半額。小学校入学前の幼児は大人1人につき2人まで無料ですが、3人目からは子ども運賃が必要です。
  • 在住者の方は、通学路で「子ども110番の家」のステッカーや交番の場所を子どもと一緒に確認しておきましょう。
  • 子どもが一人で電車に乗っていても、日本では珍しくありません。困っている様子がなければ、そっと見守るのがいちばんです。

出典

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