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なぜ日本の町にはそれぞれマスコットキャラクターがいるの?

県にも市にも、警察にもいる「ゆるキャラ」。かわいさの裏には、地域の売り込みをかけた真剣な事情があります。

A round costumed mascot waving to a small crowd at a lantern-lit summer festival in a Japanese town
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本の自治体や観光地の多くが、地元をPRするためのマスコットキャラクターを持っています。一般に「ゆるキャラ」(ゆるいマスコットキャラクターの略)や「ご当地キャラ」と呼ばれます。

2007年の「ひこにゃん」の大ヒットと、2011年ごろからの「くまモン」の大成功で、キャラクターが地域の知名度や特産品の売り上げを大きく伸ばせることが知られ、全国の自治体が次々と作りました。一方で、数が増えすぎて埋もれたり、税金の使い道として批判されたりする例もあります。

「ゆるキャラ」という言葉の誕生

「ゆるキャラ」という言葉を考えたのは、漫画家でエッセイストのみうらじゅん氏です。2000年ごろ、地方のイベントのどこか素朴で不器用なマスコットに注目し、雑誌の連載で紹介し始めました。ジャパンタイムズは、この言葉を「肩の力が抜けたキャラクター」と訳し、大企業のプロが作る洗練されたキャラクターとの対比を強調した言葉だと説明しています。

みうら氏は、ゆるキャラの条件として「郷土愛に満ちた強いメッセージ性」「立ち居振る舞いが不安定でユニーク」「愛すべきゆるさ」の三つを挙げ、原則として着ぐるみ(人が中に入って動く大きなぬいぐるみ)があることも条件にしています。その原点は、1980年代の地方博覧会ブームで作られたマスコットだといわれます。

言葉が広まると、ブームは社会現象になりました。「ゆるキャラ」は2008年の新語・流行語大賞の候補に選ばれ、2013年には「ご当地キャラ」がトップテン入りし、くまモンが受賞者になっています。同じ2013年には、埼玉県羽生市のイベントに376体のキャラクターが集まり、「マスコットの最多集合」としてギネス世界記録に認定されました。

ブームの火付け役:ひこにゃんとくまモン

ブームのきっかけは、滋賀県彦根市の「ひこにゃん」です。2007年、彦根城の築城400年祭のキャラクターとして登場しました。彦根藩主・井伊直孝を雷から救ったとされる白猫の伝説をもとに、井伊家の赤い兜をかぶった猫の姿をしています。彦根市は、キャラクターの使用料を当初無料の許可制にしたため、地元の小さな企業も含めてたくさんのグッズや菓子が作られました。イベント終了後も人気は続き、今もほぼ毎日彦根城に登場しています。

さらに大きな成功例が熊本県の「くまモン」です。2011年の九州新幹線全線開業で、熊本が「通過されるだけの駅」になることへの危機感から、県は2010年にPRキャンペーンとくまモンを発表しました。くまモンは2011年の「ゆるキャラグランプリ」で優勝し、肩書は知事、副知事に次ぐ県の「営業部長」。熊本市の百貨店に「営業部長室」まであります。県は著作権を買い取り、許可を得れば無料で商品に使えるようにしました。その結果、関連商品の売り上げは2011年の約25億円から2013年には約449億円に伸び、2011〜2021年の累計は1兆円を超えたとされます。熊本県庁には、今も「くまモン課」という部署があります。

なぜ自治体はキャラクターを作るのか

日本経済新聞が全国の都道府県と市区を対象に行った調査では、地域キャラクターの数は2011年度の714体から、2021年度には1,553体へと10年で倍増しました。同じ報道によれば、X(旧Twitter)のフォロワー数で、県のキャラクターが知事本人を上回る府県が20もあります。

理由の一つは、費用に比べて発信力が大きいことです。キャラクターはイベントに出かけたり、SNSで発信したりして話題を作れるうえ、特産品のパッケージにも使えます。熊本県の試算では、くまモンのPR効果は2010年度だけで広告料に換算して6億4,000万円にのぼりました。

もう一つは、使用料を無料または安くして、地元の企業に自由に使ってもらう仕組みです。自治体へのアンケート調査を行った研究でも、キャラクターの知的財産権は自治体が持ち、無料で使用を許可するケースが多いことが分かっています。キャラクターは、役所だけでなく地域全体の「共有ブランド」として使われているのです。

ブームの光と影

ただし、すべてが成功しているわけではありません。同じ研究では、多くの自治体が一定の成果を感じている一方で、知名度不足や担当者不足、着ぐるみの維持などの課題を抱えていることも示されています。同じ自治体の中で部署ごとにキャラクターが作られて乱立し、かえって印象が薄れるという批判も出ました。

2014年には、大阪府のキャラクターが45体にまで乱立し、最古参の「モッピー」に一本化を目指すと産経新聞が報じました。社会情報学会で発表された研究も、ブーム前(2006年以前)とブーム期(2007年以降)では、キャラクターの活動目的やSNSの使い方がはっきり変わったと分析しています。

2010年に始まった「ゆるキャラグランプリ」の参加数は2015年の1,727体がピークで、2018年には1,000体を割り込みました。上位を狙って多額の税金を使う自治体や、組織的な投票が問題になったこともあり、グランプリは2020年に終了しました。現在は後継イベントの「ゆるバース」が開かれていて、2026年の決選投票には過去最多の135体が出場します。

旅行者の楽しみ方

キャラクターは、その土地の名物や歴史をぎゅっと詰め込んだデザインになっていることが多く、「なぜこの姿なのか」を知ると旅が楽しくなります。たとえば2019年のグランプリで優勝した長野県の「アルクマ」は、名産のりんごをかたどった頭巾をかぶり、ときにはワインやそば、松茸の形の頭巾に替えて県の魅力を伝えています。

くまモンやひこにゃんのように、地元の企業がキャラクターを使ったお菓子や特産品を作っている例も多く、お土産選びの楽しみにもなります。くまモンの場合、食品の売り上げの85%は熊本県内の業者によるものでした(2013年)。彦根城のひこにゃんのように、会える時間や場所が決まっているキャラクターもいるので、公式サイトで出演予定を確認してから訪ねるのがおすすめです。くまモンの「職場」は熊本市の鶴屋百貨店にある「くまモンスクエア」で、毎週火曜と木曜は不在とされているので、会いに行くなら曜日に注意しましょう。

ヒント

  • 旅先の自治体の公式サイトやSNSで、地元キャラクターのイベント出演予定を調べてみましょう。
  • キャラクターのデザインには名産品や歴史が隠れています。由来を調べると、その土地のことがよく分かります。
  • お土産選びに迷ったら、地元キャラクターが描かれたお菓子や特産品を。地域の企業の商品であることが多いです。
  • 着ぐるみのキャラクターと写真を撮るときは、周りの子どもたちに順番を譲りつつ、スタッフの案内に従いましょう。
  • 警察や企業にもマスコットがいます。東京の警視庁の「ピーポくん」など、意外な場所のキャラクター探しも楽しめます。

出典

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