なぜ日本人は真夏にうなぎを食べるの?
「土用の丑の日」のうなぎは、1300年前の和歌と江戸の宣伝伝説、そして夏バテ対策が重なって生まれた習慣です。
ざっくり言うと
日本では、夏の「土用の丑の日(どようのうしのひ)」に、甘辛いたれで焼いたうなぎの蒲焼き(かばやき)を食べる習慣があります。暑さで体が弱る「夏バテ」を防ぐため、栄養のあるものを食べようという考え方が根っこにあります。
うなぎが夏痩せに良いという話は奈良時代の和歌集『万葉集』にすでに登場します。一方、「丑の日にうなぎ」を広めたのは江戸時代の発明家・平賀源内だという有名な話は、実は裏付けとなる史料が見つかっていません。
「土用の丑の日」ってどんな日?
農林水産省の説明によると、「土用」とは立春・立夏・立秋・立冬(季節の始まりとされる日)の直前、約18日間のことです。昔の暦では日にちにも十二支(子・丑・寅…)が12日周期で割り当てられており、土用の期間中に「丑」の日が重なった日が土用の丑の日です。
つまり土用の丑の日は本来、年に何回もあります。ただ、うなぎを食べるのは立秋前の夏の土用で、例年7月下旬ごろにあたります。国立天文台の暦によると、2026年の夏の土用は7月20日に始まりました。約18日間の土用に12日ごとの丑の日が入るため、年によっては夏の丑の日が2回あり、2回目は「二の丑」と呼ばれます。
1300年前から「夏痩せにはうなぎ」
うなぎと日本人の付き合いは古く、各地の貝塚からうなぎの骨が出土しています。うなぎが体に良いと書いた最古の文献とされるのが『万葉集』です。編さんの中心人物だった大伴家持(おおとものやかもち)は、やせた知人をからかいながら「夏痩せにはうなぎ(当時の呼び名は「むなぎ」)が良いそうだから、とって食べるといい」という趣旨の歌を詠んでいます。
では、なぜ「丑の日」なのでしょうか。これには諸説あります。丑の日に「う」のつく食べ物を食べると良いという言い伝えのほか、考古学者の樋口清之は、丑の日には黒いものを食べると良いとされ、うなぎもその一つだったと述べています。いずれにしても、夏の土用に精のつくものを食べる風習は、江戸時代よりずっと前からあったようです。
平賀源内の「広告コピー」説は本当?
よく語られるのは、夏にお客が減って困ったうなぎ屋が平賀源内に相談し、「本日、土用の丑の日」と店先に貼り出したところ大繁盛した、という話です。源内は歯磨き粉の広告も手がけた人物で、コピーライターの元祖ともいわれます。
ところが読売新聞のコラムによると、源内がこのコピーを作ったと確認できる史料はありません。狂歌師の大田南畝(おおたなんぽ)がうなぎ屋に頼まれて宣伝の歌を作ったという似た話や、江戸・神田のうなぎ屋が大名から大量の注文を受けたことがきっかけだとする話も伝わっており、どれが本当かはわかっていません。面白い話として楽しみつつ、「定説ではない」と知っておくのがよさそうです。
なお、天然のうなぎの本当の旬は、冬に備えて栄養を蓄える秋から初冬だといわれます。真夏に食べるのは、味の旬というより季節の行事としての意味が大きいのです。
栄養と、蒲焼きの豆知識
農林水産省によると、うなぎにはビタミンA、B1、B2、E、Dのほか、カルシウム、鉄分、亜鉛、DHAやEPAといった脂質が豊富です。特にビタミンAは、100グラム食べれば大人が1日に必要な量に届きます。
「蒲焼き」という名前にも由来があります。昔はうなぎを開かずに串に刺して丸ごと焼いており、その形が水辺の植物「蒲(がま)」の穂に似ていたことから「がまやき」と呼ばれたのが語源だという説が知られています。室町時代の記録には、ぶつ切りにして串に刺して焼いたとあり、平安時代の貴族は蒸して食べていたそうです。関西ではうなぎを「まむし」と呼ぶことがあり、ご飯の間にうなぎを挟んで蒸す「間蒸し」が語源だといわれます。
蒲焼きには、ぴりっとしびれる香辛料の山椒(さんしょう)を振るのが定番です。昔の養殖うなぎは臭みが強く、それを消すために添えられたのが始まりとも言われています。さばき方にも地域差があり、関東は背中から開き、関西はお腹から開くのが一般的です。武士の多かった江戸では腹を切る切腹を連想させるお腹からの開き方が嫌われ、商人の町の大阪では「腹を割って話せるように」とお腹から開いた、という説明がよく知られています。
「うなぎと梅干しは食べ合わせが悪い」という言い伝えもありますが、医学的な根拠はありません。梅干しで食欲が増し、高価なうなぎを食べ過ぎないようにという戒めだったという説があります。また、うなぎの血には毒がありますが、熱に弱いたんぱく質の毒なので、よく加熱した蒲焼きなら心配はいりません。
うなぎを食べるのは日本だけではありません。農林水産省によると、中国や台湾では薬味と蒸したり煮込んだり、スペインでは稚魚をニンニクとオリーブオイルでソテーしたり、デンマークやドイツでは燻製にしたりと、ヨーロッパにもうなぎ料理の文化があります。ただ、特定の日に国中でうなぎを食べる習慣は、日本ならではといえそうです。
今知っておきたい、うなぎの資源問題
実は、日本の食卓に並ぶうなぎは深刻な問題を抱えています。環境省は2013年、ニホンウナギを絶滅危惧IB類(近い将来に野生で絶滅する危険性が高い種)に指定しました。天然うなぎの漁獲量データから見ると、3世代で72〜92%減った計算になるとしています。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでも絶滅危惧種です。
国内で流通するうなぎの大半は養殖ですが、卵から育てる技術はまだ商業化されておらず、天然の稚魚(シラスウナギ)を捕って育てています。水産庁は人工の稚魚を大量生産する技術開発を進めています。2025年12月には、ワシントン条約(野生動植物の国際取引を規制する条約)の締約国会議で、EUが提案したうなぎ全種の取引規制強化案が否決されましたが、資源をどう守るかは今も大きな課題です。
天然なら成魚になるまで10年以上かかるところを、養殖では半年ほどで大きく育てて出荷します。丑の日に間に合わせるため、その半年ほど前に稚魚が集中的に捕られる、という構図です。以前、環境省が丑の日を前に「予約して大事にいただきましょう」とSNSで呼びかけたところ、「絶滅危惧種を食べるのを勧めるのか」と批判が殺到し、投稿が削除される騒ぎもありました。
消費が丑の日に集中することが稚魚の乱獲につながっている、と指摘する専門家もいます。食べるなら、予約して無駄を出さないことも大切です。
ヒント
- 夏の土用の丑の日はうなぎ屋が大混雑します。人気店で食べたいなら予約するか、日をずらすのがおすすめです。
- 蒲焼きには山椒をひと振り。香りとしびれるような辛さが脂っこさを和らげてくれます。
- うなぎの蒲焼きは関東と関西でさばき方が違います(関東は背開き、関西は腹開き)。旅先で食べ比べてみるのも一興です。
- うなぎは絶滅が心配されている魚です。食べるときは無駄にしないよう、必要な分だけ注文しましょう。