日本人はなぜ紅葉狩りにこれほど熱心なの?
秋になると、日本中が色づく葉を見に出かけます。千年以上前の貴族の遊びから、気象庁が毎年記録する「紅葉日」まで、紅葉狩りが国民的な行事になった理由を解説します。
ざっくり言うと
紅葉狩り(もみじがり)は、秋に赤や黄色に色づいた木々を見に出かけることです。「狩り」といっても何かを捕まえるわけではなく、ただ眺めて楽しみます。春の花見(桜を見る行事)と並ぶ、日本の二大「季節を見に行く」行事です。
これほど熱心な理由は大きく3つあります。千年以上前から和歌や物語に詠まれてきた長い歴史があること。日本列島が南北に長いので、色づきが北から南へ2か月近くかけて移っていき、多くの人に「見に行けるチャンス」があること。そして、寺や神社、庭園と紅葉の組み合わせが、ほかでは見られない景色を作ることです。
国の機関である気象庁が、毎年かえで(もみじ)の色づきを記録していることからも、紅葉が日本人の季節の感じ方にどれだけ根づいているかがわかります。
万葉集から平安貴族へ
「もみじ」という言葉は、葉が赤や黄色に色づくことを表す古い動詞「もみつ」から来ていると言われます。8世紀にまとめられた日本最古の和歌集『万葉集』にも、色づいた葉を詠んだ歌がたくさんあり、その多くは「紅葉」ではなく「黄葉」と書かれていたことが知られています。
紅葉をめでる習慣が広がったのは平安時代(794〜1185年ごろ)の貴族の間からとされます。紅葉の下で宴を開き、和歌を詠むのが雅な遊びでした。色づいた枝を実際に手折って、手のひらにのせて眺めるという楽しみ方もあったと言われています。
なぜ「狩り」なのかには、こんな説があります。当時の貴族は歩くことを品のないことと考え、牛車(ぎっしゃ。牛が引く車)で移動していました。でも山の紅葉は牛車では見に行けません。そこで、歩いて山野に出かけることを「狩り」に見立てた、というものです。鎌倉時代の随筆『方丈記』にも、桜を「狩る」、紅葉を「求める」という表現が出てきます。
江戸時代に庶民の楽しみへ
江戸時代(1603〜1868年)になると、紅葉狩りは貴族だけのものではなくなり、町の人々の行楽として広まりました。江戸(今の東京)の近くでは、真間山弘法寺(ままさんぐほうじ。今の千葉県市川市)や滝野川(今の東京都北区)、品川の海晏寺(かいあんじ)などが紅葉の名所として人気を集めたと言われています。
花見と同じく、紅葉狩りも「季節が来たら、みんなで外に出て景色を楽しむ」という行事として定着していきました。今の日本人が秋の週末に紅葉の名所へ出かけるのは、この長い流れの延長線上にあります。
現代の紅葉の名所としては、青森県の奥入瀬(おいらせ)渓流、栃木県の日光、京都の寺社などがよく知られ、見頃にはたくさんの人でにぎわいます。
気象庁が記録する「紅葉日」と紅葉前線
気象庁は、全国の気象台などで、決まった木(標本木)を観察する「生物季節観測」を続けています。2021年に観測する種目は大きく減らされましたが、かえでの紅葉といちょうの黄葉は今も観測が続いています。
気象庁の定義では、かえでの「紅葉日」は、標本木全体を眺めたときに大部分の葉が赤く変わった最初の日のことです。主にいろはかえで(イロハモミジとも呼ばれる、日本でいちばん身近なもみじ)を標本木にしています。
1991〜2020年の平年値では、かえでの紅葉は10月中旬に北海道で始まり、11月20日ごろに東北地方、11月30日ごろには関東・東海・中国・四国・九州北部などに届き、12月上旬から中旬にかけて関東・東海の太平洋沿岸、近畿、九州南部へと進みます。桜が南から北へ咲き進むのとは逆に、紅葉は北から南へと進んでいきます。この移り変わりを地図に描いたものが「紅葉前線」です。
なぜ日本の紅葉はこんなに鮮やかなの?
秋になって日が短くなると、葉の緑の色素(クロロフィル)が分解され、赤い葉では「アントシアン」という色素が新しく作られます。黄色い葉は、もともと葉にあった黄色の色素が目立ってくることで色づきます。
色づきが始まるには朝晩の冷え込みが必要で、昼と夜の気温差が大きいこと、空気がきれいなこと、適度な水分があることなどが、きれいな紅葉の条件と言われています。山あいの渓谷や高原、湖や滝のまわりに名所が多いのはこのためです。
日本には、赤くなるかえで類、黄色くなるいちょう(銀杏)など、色づく木の種類が多く、山全体が赤・橙・黄のまだら模様になります。都市部でも、いちょう並木が真っ黄色になる光景が秋の風物詩になっています。
今の紅葉狩りの楽しみ方
最近は、夜に紅葉をライトアップする寺社や庭園も増えています。たとえば滋賀県の石山寺では、境内のおよそ2,000本のもみじが11月中旬から12月上旬に見頃を迎え、期間限定で夜間のライトアップも行われています。昼とはまったく違う、幻想的な景色が楽しめます。
日本人にとって紅葉狩りは、特別な知識がなくても楽しめる気軽な行楽です。散歩をして、写真を撮り、温かい飲み物や季節の食べ物を楽しむ。それだけで「今年も秋を感じた」と満足できる、季節の区切りのような行事なのです。
旅行者にとっても、紅葉の時期は日本の秋の美しさを体験する絶好のチャンスです。ただし人気の名所は見頃の週末にとても混み合うので、計画は早めに立てましょう。
ヒント
- 見頃は場所によって大きく違います。気象庁の平年値では、北海道は10月中旬ごろから、東北は11月20日ごろ、関東や近畿の平地は11月末から12月にかけて色づきます。気象庁や各地の観光サイトの紅葉情報で直前に確認しましょう。
- 紅葉前線は約2か月かけて北から南へ進むので、旅行の時期に合わせて行き先を選べば、10月から12月まで見頃の場所に出会えます。
- 京都などの人気の寺社は、見頃の週末と夜のライトアップ時に大変混雑します。朝早い時間や平日を狙うのがおすすめです。
- 境内や庭園では、枝を折ったり、立ち入り禁止の場所に入ったりしないこと。平安貴族は枝を手折ったそうですが、今はマナー違反です。
- 山の紅葉スポットは朝晩かなり冷えます。昼は暖かくても、上着を一枚持っていきましょう。