なぜ日本は「季節限定」商品だらけなの?
春は桜味、秋は栗とさつまいも。季節を味わう古い食文化と「今だけ」に弱い心理が、売り場で手を組んでいます。
ざっくり言うと
日本には、食材が一番おいしい時期を「旬(しゅん)」と呼んで大切にし、料理やお菓子で季節の移ろいを楽しむ文化が昔からあります。そこに「今しか買えない」と言われると欲しくなる人間の心理と、店の棚を勝ち取りたいメーカーの戦略が重なった結果、コンビニやスーパーには「季節限定」「期間限定」の商品があふれています。
印刷会社の大日本印刷(DNP)の調査では、ある時期の首都圏のスーパーのスナック菓子のうち約3割が何らかの「限定品」でした。旅行者が「どこを見ても限定品」と感じるのは、気のせいではないのです。
土台にあるのは「旬」を味わう食文化
文化庁によると、四季がはっきりした日本では、それぞれの季節に最もおいしくなる旬の食材を大切にしてきました。さらに、出始めを「はしり」、季節の終わりを「名残(なごり)」と呼び分け、細かな季節の変化まで味わいます。
和菓子はその代表で、春は桜や菜の花、夏は朝顔や七夕、秋は紅葉や栗、冬は寒椿や水仙といったモチーフで、色や形から季節の到来を知らせます。味だけでなく目でも季節を楽しむ文化が、今のコンビニスイーツにまで続いているといえます。
「初物七十五日(はつものしちじゅうごにち)」ということわざもあります。初鰹(はつがつお)や初茄子など、その年に初めてとれたものを食べると寿命が75日延びる、という昔からの俗信です。旬の始まりを喜ぶ気持ちは、江戸時代の人々にもすでにあったのです。
皮肉なことに、遠くの海での漁や、季節をずらして育てる促成栽培が当たり前になったことで、日本人の食卓を彩っていた季節感は薄れつつある、と百科事典は指摘しています。いつでも手に入るようになったからこそ、季節を感じさせてくれる商品が改めて求められている、とも考えられます。
売り場の「限定品」はどれくらい多い?
ひと口に「限定品」といっても、中身はさまざまです。DNPは限定品を、ある期間だけ売る「時間の限定」(季節限定・期間限定)、特定の地域や店だけで売る「場所の限定」(地域限定・流通限定)、数を絞る「数量の限定」の3つの軸で整理しています。この軸を掛け合わせるほど「レア度」が上がり、例えば「○○店限定・数量限定・春限定いちご味」のような商品も生まれます。
DNPが2019年10月に東京・千葉の大型スーパー3店舗を調べたところ、スナック菓子の品目のうち限定品が約3割を占めていました。内訳は、プライベートブランドなど特定の店でしか買えない「チャネル限定」が15.6%、「期間限定」が13.0%です。缶チューハイなどそのまま飲めるお酒でも、限定品は2割近くありました。
メーカーの動きも活発です。同じ調査によると、企業の新商品ニュースリリースのうち「限定」をうたったものは、2014年8月の44本から2019年8月には79本へとほぼ倍増していました。
しかも、限定品はきちんと売れています。あるドラッグストアチェーンの2019年7月の売上データでは、高価格帯アイスの売上上位20品目のうち、限定フレーバーなどの限定品が売上の36.9%を占めていました。
店に並べてもらえるのは、世の中にある商品のうちほんの一握りです。その棚の2〜3割を限定品が占めているというのは、それだけ売り手が限定品に力を入れている証拠だとDNPは見ています。棚の中には、定番の味がなく限定の味だけが並んでいるブランドさえあったそうです。
なぜ「今だけ」に弱いのか
DNPが2020年に全国の20〜60代1,000人に聞いた調査では、64.7%がスーパーで食品や飲料の限定品を買ったことがあると答えました。限定品を買った人の多くは菓子類で経験があり、その85.5%が「期間限定」の菓子を買っていました。買った理由は「食べたことのない味に興味があったから」が70.8%で最多、次いで「季節や旬を感じたいから」が48.8%でした。
マーケティングの研究でも、「期間限定」や「数量限定」といった希少性を示す言葉が商品の評価を高めることが報告されています。手に入りにくいものほど価値があるように感じ、「買わずに後で後悔したくない」という気持ちが背中を押すためだと考えられています。 買える機会が限られているときは、買って失敗するよりも、見送って買い逃すほうが後悔が大きくなりやすい、という研究結果も紹介されています。
メーカー側にも事情があります。消費者庁の調査では、いつも同じ商品やブランドを選ぶ人が約4割いました。新商品を試してもらうのは簡単ではないのです。興味深いことに、DNPの調査では、普段決まったブランドを選ぶ人のほうが、かえって限定品に惹かれる傾向が強かったといいます。季節限定は、普段は冒険しない人に手に取ってもらうきっかけになります。人気が出た限定フレーバーを通年の定番に格上げすることもあり、限定品は新商品のテストの場にもなっているのです。
旅行者が驚くポイント
特に目立つのが春の桜です。日本では桜の開花予想がニュースになるほど一つの花に注目が集まり、桜の葉で包んだ桜餅のような昔ながらの和菓子だけでなく、洋菓子店やお菓子メーカーからも桜味の商品が次々に登場します。秋には焼き芋や栗、冬から春にかけてはみかんやゆず、いちごといった味が棚に並びます。
もう一つの特徴は「地域限定」です。旅先でしか買えないご当地味のお菓子は、「ここでしか買えない」と「今しか買えない」の両方の魅力を持つため、お土産として人気があります。
流通や保存の技術が進み、今では一年中どこでも同じものが手に入ります。DNPのマーケターは、だからこそ「いつでもどこでも」だけでは物足りない気分が生まれ、限定品がその受け皿になっているのではないかと分析しています。
上手な楽しみ方
季節限定品は、その名の通り期間が過ぎれば店頭から姿を消します。気になるものを見つけたら、その場で試すのが一番です。パッケージの「限定」という漢字を覚えておくと、日本語が読めなくても見分けやすくなります。
季節の和菓子もおすすめです。和菓子店のショーケースは季節ごとに入れ替わるので、同じ店でも訪れる時期によってまったく違う景色が見られます。
ヒント
- 「限定」の2文字を覚えましょう。「季節限定」「期間限定」「地域限定」「数量限定」など、パッケージに書かれています。
- 気になった限定品は見つけたときに買うのが正解です。期間が終われば店頭から消えてしまいます。
- 旅先の駅や空港の売店では、その地域でしか買えない「ご当地味」を探してみてください。お土産にも喜ばれます。
- 春に来日するなら、コンビニで桜味の商品をいくつ見つけられるか数えてみるのも楽しいですよ。
- 和菓子店では季節のモチーフのお菓子が並びます。春なら桜餅、秋なら栗を使ったお菓子を探してみましょう。