Why Japan? · マナー

なぜ日本人はきれいに列に並ぶの?

「日本人は行儀がいいから」だけでは説明できません。満員の都市を回すための仕組みと、それに協力する習慣が合わさった結果です。

Illustration of commuters waiting in two neat lines on a Japanese train platform as a train approaches
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本の駅や店で人々が整然と並ぶのは、国民性だけが理由ではありません。とても混雑する大都市で、限られた場所と時間を大勢で分け合うために、鉄道会社などが「どこに・どう並ぶか」を目で見て分かる形にし、利用者の多くがそれに協力してきたことが大きく影響しています。

並ぶ位置が床にはっきり示されているので、初めての人でも迷わず列に加われます。仕組みがあるから並びやすく、みんなが並ぶから仕組みがうまく回る、という関係なのです。

満員電車が生んだ「整列乗車」

日本の大都市では、朝の通勤・通学の混雑が7時から9時ごろのおよそ2時間に集中します。大きなターミナル駅では電車が次々に発着し、ホームは人であふれます。近年は鉄道会社の輸送力の増強やフレックスタイム、テレワーク、時差通勤の広がりで混雑は和らいできたとされますが、それでも朝のラッシュは今も日常の風景です。

こうした状況で、数分おきにやってくる電車を時刻表どおりに動かすには、乗り降りをすばやく終わらせる必要があります。そこで鉄道会社が呼びかけてきたのが整列乗車(せいれつじょうしゃ)です。決められた乗車位置に並ぶ、降りる人が先、割り込みはしない、という三つが基本です。

日本民営鉄道協会の用語解説でも、強引な割り込みは乗客同士のトラブルの原因の一つであり、整列乗車は一人一人の協力で成り立つマナーだと説明されています。並ぶことは、単なる礼儀ではなく、電車を遅らせないための共同作業でもあるわけです。

床の印が並び方を教えてくれる

日本の駅のホームを歩くと、足元に色の付いた線や矢印、番号が描かれているのに気づくはずです。大手私鉄などでは、電車のドアが止まる位置を示したり、各駅停車や急行など種類の違う電車ごとに別々の列を作れるようにしたりする表示を、主要駅や途中の駅に設けています。

つまり、並ぶ場所を一人一人が判断する必要がほとんどありません。ドアの両側に列を作り、真ん中を降りる人のために空けておく、といった動き方も、表示を見れば自然と分かるようになっています。こうした「迷わせない工夫」があるからこそ、何百人もが短い時間で整然と乗り降りできるのです。日本の駅では、電車がホームのほぼ決まった位置にぴたりと止まるので、こうした表示が実際に役に立つのです。

店のレジにも「並ぶ仕組み」がある

駅だけでなく、コンビニやスーパーのレジ前にも、床に「ここでお待ちください」という足形のシールや線が貼られていることがよくあります。前の人との間隔を保ち、ほかの客が列の間を通り抜けられるようにするための工夫で、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、距離をとるための目印としてさらに広く使われるようになりました。

並び方にも種類があります。レジごとに列を作る方式のほか、一本の列に並んで、空いたレジから順に呼ばれる「フォーク並び」もよく使われています。フォーク並びでは、どのレジが早く空くかで損得が出ないので、「隣の列のほうが早かった」という不公平感が生まれにくいのが特徴です。レジの店員さんが「次のお客さま、どうぞ」と呼んでくれるので、それに従えば大丈夫です。

エスカレーターのルールも変わりつつある

並び方の話でよく話題になるのがエスカレーターです。日本では長いあいだ、片側に立ち、もう片側を歩く人のために空けるという習慣が広がっていました。ところが、この習慣には問題があります。けがや障害などで片側の手すりしかつかめない人は、空けておく側に立てず、安全に乗れないことがあるのです。

名古屋市は、エスカレーターの上を歩くと本人がけがをするおそれがあるだけでなく、ほかの利用者、特にお年寄りや障害のある人を危険にさらすことがあると説明しています。急ぐ人のために片側を空けるという「気づかい」が、実は別の人にとっての危険になっていた、というわけです。

そこで埼玉県は2021年10月に、エスカレーターでは立ち止まって乗ることを利用者に求める条例を施行しました。名古屋市も2023年10月に同じ趣旨の条例を施行し、歩く・立つの位置に関係なく、立ち止まって利用するよう定めています。どちらの条例にも罰則はなく、管理者が利用者に呼びかけることで意識を変えていこうというものです。並び方のルールも、時代に合わせて見直されているわけです。

外国人が驚く場面

日本の並び方が世界に強く印象づけられたのは、2011年3月の東日本大震災のときでした。AFPの報道によると、大きな被害のなかでも、品物が少なくなった店の前に人々が落ち着いて列を作り、略奪や暴動が起きなかった様子が海外で大きく取り上げられました。米ウォール・ストリート・ジャーナルは社説で、混乱のなかでも日本の人々が冷静さを保っていると評価し、米ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、この悲しい出来事が日本の魅力的な一面を示したと語っています。米国の研究機関CSISの専門家も、危機のなかで見せた日本の人々の粘り強さが、これからの日本の姿を形づくるだろうと述べました。

一方で、「日本人は生まれつき列を乱さない」と考えるのは言い過ぎです。混雑する駅では割り込みをめぐるトラブルも起きていて、だからこそ鉄道会社が今もマナーを呼びかけ続けています。きれいな列は、日本人の性格だけでなく、仕組みと呼びかけと周りへの気づかいが積み重なった結果と考えるのが実態に近いでしょう。

旅行者・新しく住む人のための並び方ガイド

駅のホームでは、足元の印を探し、自分が乗る電車の列に並びましょう。電車が着いたら、ドアの横に寄って降りる人を先に通し、全員が降りてから乗ります。大きなスーツケースを持っているときは、列の流れをふさがないよう、なるべく混雑する時間帯を避けるのも思いやりです。

店やイベントでは、列の終わりに「最後尾」と書かれたプラカードを持ったスタッフが立っていることがあります。列の途中に入るのはもちろん、友だちが並んでいるところに後から合流して割り込む形になるのも、嫌がられやすいので気をつけましょう。エスカレーターでは、地域の案内に従って立ち止まって乗るのが今の基本です。

列があるのかどうか分からないときは、近くの人に「並んでいますか?」と聞けば、たいていは親切に教えてくれます。反対に、自分の前に誰かが入ってきたときは、責めるよりも「後ろに並んでいますよ」と穏やかに伝えるほうが、相手も気づきやすく、場の空気も悪くなりません。

ヒント

  • 駅のホームでは足元の線や番号を見て、乗る電車の列に並びましょう。
  • 電車のドアが開いたら、両脇に寄って降りる人を先に通してから乗るのがルールです。
  • ラッシュ時(平日朝7〜9時ごろ)の大都市の電車は大荷物での移動を避けると快適です。
  • エスカレーターは立ち止まって乗るのが基本。埼玉県や名古屋市では条例で定められています。
  • 列の最後がどこか分からないときは「最後尾はどこですか?」と聞けば教えてもらえます。

出典

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