ふぐ料理
猛毒を持つ魚なのに、日本では冬のごちそう。かつて食べることを禁じられたふぐが、なぜ下関の名物になったのか。安全に食べられる仕組みとあわせて紹介します。
ふぐとはどんな魚?
ふぐ(河豚)は、テトロドトキシンという強い毒を持つ魚です。毒の強さは種類や部位によって大きく違い、一般に肝臓、卵巣、皮の毒が強いとされます。食べると20分から3時間ほどでしびれやまひが起こり、重い場合は呼吸ができなくなって死に至ることもあります。今も日本では年に10件ほどのふぐ中毒が起きています。
それでも日本人がふぐを食べ続けてきたのは、身の歯ごたえと上品なうま味が好まれてきたからです。山口県の観光サイトによると、縄文時代の貝塚からもふぐを食べた跡が見つかっているそうです。高級魚として知られ、祝い事など特別な日に食べられることが多い魚です。
禁止令から解禁へ:下関とふぐの歴史
天下を統一した豊臣秀吉が朝鮮半島に兵を送った際、兵士がふぐを食べて亡くなったことから「ふぐ食禁止令」が出されたとされます。ただ、庶民はその後もふぐを食べていたと言われ、味噌汁の具にすることもあったそうです。
転機は明治時代です。山口県出身で初代の内閣総理大臣になった伊藤博文が、下関に滞在したときにふぐのおいしさに感心し、1888年に山口県に限ってふぐ食が解禁されました。このとき伊藤博文が泊まっていた下関の料亭が、ふぐ料理の公認第1号の店になったと伝えられています。
こうして下関はふぐとともに発展しました。毒のある部位を取り除く技術を持つ職人や目利きの業者が集まり、現在の下関にはふぐの取扱量が全国1位という、日本で唯一のふぐ専門の卸売市場があります。漁獲量は全国のトップ3にも入らないものの、全国で水揚げされたふぐが下関に集まってくるのです。2016年には「下関ふく」が、地域の産品を守る国の地理的表示(GI)保護制度に、水産物として初めて登録されました。
ふぐ料理の種類
代表は刺身です。ふぐの身は弾力があって硬いため、皿の模様が透けて見えるほど薄く切る「薄造り」にします。大皿に菊の花のように並べる「菊盛り」や、鶴の形にする「鶴盛り」など、盛り付けの美しさも見どころです。あさつきやもみじおろしなどの薬味を添え、柑橘の果汁と醤油を合わせたポン酢でいただきます。
冬に好まれるのが「ふぐちり鍋」です。昆布だしでふぐの切り身やアラ(骨のまわりの身)と野菜を煮て、ポン酢で食べます。最後に残ったスープでご飯を煮る雑炊は、ふぐのうま味を余さず味わえる締めの一品です。ほかに、下味をつけて揚げた「ふぐの唐揚げ」、焼いたひれを熱燗(温めた日本酒)に入れた「ひれ酒」も定番です。
関西では、ふぐ刺しを「てっさ」、ふぐ鍋を「てっちり」と呼ぶこともあります。また下関では、縁起をかついで「福」にちなみ、ふぐを「ふく」と呼びます。
安全に食べるための仕組み
日本では、食べてよいふぐの種類、とれた場所、食べられる部位が国によって決められています。ふぐをさばけるのは、都道府県ごとの資格(ふぐ調理師の免許など)を持つ人だけで、その呼び名や試験の内容は都道府県によって異なります。
ふぐの種類の見分けは専門家でないと難しく、食べられる部位も種類によって違います。厚生労働省は、素人がふぐを判断したり、さばいたりするのは危険だと注意を呼びかけています。自分で釣ったふぐを料理したり、人からもらったふぐを調理したりするのはやめましょう。
どこで、いつ食べる?
本場は山口県、特に下関と萩です。下関周辺ではトラフグが有名で、萩では歯ごたえと甘みのあるマフグがよく水揚げされます。山口県ではスーパーの鮮魚売り場にもふぐ刺しが並ぶほど身近な食材で、ランチの定食や居酒屋のおつまみなど、比較的手ごろに食べられる店も多くあります。下関の唐戸(からと)市場では、週末と祝日に海鮮の屋台が並ぶイベントが開かれ、ふぐ料理を気軽に味わえます。
天然のトラフグは数が減っているため漁期が9月から3月に限られ、ふぐは冬の味覚として親しまれています。専門店では刺身から鍋、雑炊まで続くコース料理が定番です。
食事制限のある方へ:ふぐ料理は魚料理で、ポン酢には醤油、ひれ酒には日本酒が使われます。毒のある部位を除いた、資格を持つ料理人が調理したものを、きちんとした店で食べてください。
ヒント
- ふぐは必ず、資格を持つ料理人がいる店で食べましょう。自分で釣ったふぐや、素人がさばいたふぐは決して食べないでください。
- 旬は冬です。天然のトラフグは9月から3月が漁期とされています。
- 高級なコースが心配なら、山口県では唐揚げの定食やランチなど手ごろなメニューから試せます。
- 下関では「ふぐ」を「ふく」と呼びます。看板やメニューで「ふく」と書かれていても同じ魚です。
- お酒が飲めるなら、焼いたひれを熱燗に入れた「ひれ酒」もふぐ料理の楽しみのひとつです。