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日本ではなぜ今もはんこ(印鑑)を使うの?

サインの代わりに小さなはんこを押す日本。実は法律上は不要な場面がほとんどなのに、なぜ残っているのか。2020年以降の「脱はんこ」の動きもあわせて解説します。

A small stamp seal and a dish of red ink on a wooden desk beside a shoji window
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本では、書類に手書きのサインをする代わりに、名字などを彫った小さな印章「はんこ(印鑑)」を朱色のインクで押す習慣があります。理由は大きく2つあります。ひとつは、明治時代から「実印(じついん)」という公的な登録制度があり、大事な取引で「本人が押した」ことを示す道具として使われてきたこと。もうひとつは、長年の習慣として「大事な書類にははんこ」という意識が社会に根付いていることです。

ただし、契約そのものは法律上、はんこがなくても成立します。2020年からは国が行政手続の押印を大幅に減らし、2021年には婚姻届などの戸籍の届出でも押印が義務ではなくなりました。今の日本は「ほとんどの場面では不要、でも一部の重要な手続きでは今も必要」という移行期にあると言えます。

2000年前の金印から明治の「実印」制度まで

日本とはんこの関係はとても古く、その象徴が国宝の金印「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」です。福岡市博物館によると、これは中国・後漢の光武帝が西暦57年に倭(当時の日本の呼び名)の奴国の王に贈ったもので、1784年に福岡の志賀島(しかのしま)で、田んぼの水路を直していた農民が偶然見つけたと伝わります。印面は一辺約2.35cm、1931年に国宝に指定されました。

現代につながる制度ができたのは明治時代です。全日本印章業協会によると、明治6年(1873年)10月の太政官布告(当時の政府の法令)で実印の制度が定められ、それ以来、はんこは日本の社会制度の中で重要な役割を担ってきました。

「実印」と「認印」はどう違う?

はんこには大きく分けて、役所に登録した「実印」と、登録していない普段使いの「認印(みとめいん)」があります。実印は、住んでいる市区町村の役所で「印鑑登録」をしたはんこのことです。横浜市や千葉市の案内によると、登録できるのはその市に住民登録がある15歳以上の人で、千葉市では1人1個まで。印影(押したときの形)は一辺8mmより大きく25mmより小さいことなどの条件があり、ゴム印のように変形しやすいものは登録できません。

登録すると「印鑑登録証明書(印鑑証明)」を発行してもらえます。千葉市の説明では、これは財産上の取引などで使ったはんこが実印であることを証明するものです。つまり「このはんこは確かにこの人のもの」と役所が保証してくれる仕組みで、だからこそ大事な契約では今も実印と印鑑証明がセットで求められることがあります。

外国籍の人も、住民登録があれば印鑑登録ができます。千葉市では、在留カードに書かれたアルファベットの氏名で登録するのが基本で、カタカナや通称名は住民票に登録している場合に限られています。細かいルールは自治体ごとに違うので、住んでいる市区町村の案内を確認しましょう。

実は「はんこがないと契約は無効」ではない

意外に思うかもしれませんが、内閣府・法務省・経済産業省が2020年6月19日に出した「押印についてのQ&A」は、契約は当事者の合意で成立し、特別な決まりがある場合を除いて、押印がなくても契約の効力には影響しないとはっきり説明しています。

では、はんこには何の意味があるのか。民事訴訟法には、本人の署名か押印がある私文書は本人が作ったものと推定する、という規定があります。裁判で「この書類は本当に本人が作ったのか」が争われたとき、本人のはんこがあれば証明の負担が軽くなる、というのがはんこの法律上の主な役割です。

ただし同じQ&Aは、その効果は限定的だとも指摘しています。はんこの盗用などがあれば推定は崩れうること、登録していない認印では「本人のはんこと一致する」ことの証明自体が難しいこと、3Dプリンターなどではんこを真似しやすくなったという指摘があることなどです。代わりに、メールのやり取りの保存や電子署名など、別の方法で証拠を残すことを勧めています。

2020年からの「脱はんこ」

大きな転機は2020年でした。前述のQ&Aも、テレワーク(在宅勤務)を進める観点から、不要な押印を省いたり、押印以外の方法で代えたりすることを勧めています。国は各省庁の手続きを総点検し、内閣府の資料によると、国の行政手続14,992種類のうち14,909種類(99.4%)で押印の廃止を決定、または廃止の方向で検討するという結果になりました。

見直しの考え方は、登録していないはんこ(認印)は本人確認の効果が大きくないので基本的に廃止する、一方で制度上きびしい確認が必要な場合は印鑑証明の提出まで求めることもありうる、というものです。つまり「認印はやめる、実印と印鑑証明が意味を持つ場面は残す」という整理です。

法律も変わりました。デジタル庁の資料によると、2021年の「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」で48の法律が改正され、押印を求めていた手続きの押印を不要にし、書面の交付なども電子的な方法でできるようにしました(施行は原則2021年9月1日)。法務省によると、同じ日から婚姻届や出生届などの戸籍の届出も押印が義務ではなくなりましたが、本人が望めば任意で押すこともできます。

旅行者・在住者がはんこと出会う場面

日本に住むと、役所や契約の書類で「印(いん)」と書かれた丸い欄を見かけることがあります。これがはんこを押す場所です。国の手続きではほとんど不要になりましたが、民間の手続きや自治体によって扱いはまだまちまちなので、迷ったら窓口で「サインでもいいですか」と聞いてみるのが確実です。

歴史好きなら、福岡市博物館で国宝の金印を見るのがおすすめです。博物館によると、金印は開館以来、常設展示室でいつでも公開されています。小さな金のはんこが、日本の歴史の最初のほうのページに登場しているのを実感できますよ。

ヒント

  • 書類の「印」の欄は、はんこを押す場所です。はんこを持っていない場合は、サインで代用できるか窓口で確認しましょう。
  • 長く住む予定で、不動産や車などの大きな取引をする可能性があるなら、住んでいる市区町村の印鑑登録の案内を読んでおくと安心です。外国籍の人も住民登録があれば登録できます。
  • 印鑑登録できるはんこには大きさや材質の条件があります(例: 一辺8mm超25mm未満、ゴム印は不可)。作る前に自治体の条件を確認しましょう。
  • 婚姻届などの戸籍の届出は、2021年9月1日から押印が義務ではありません。はんこがなくても提出できます。
  • 福岡を訪れるなら、国宝の金印を常設展示している福岡市博物館へ。

出典

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