Why Japan? · 食

なぜ日本では生卵を食べても大丈夫なの?

卵かけご飯が当たり前に食べられる裏には、「生で食べる前提」で組み立てられた農場から食卓までの仕組みがあります。

Bowl of rice topped with a raw egg yolk and soy sauce on a kitchen table in morning light
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本の卵は、はじめから「生で食べる人がいる」ことを前提に作られ、流通しています。養鶏場の衛生管理、GPセンター(卵を洗って選別・包装する施設)での洗浄・殺菌と検査、そして「生で食べられる期限」としての賞味期限表示が組み合わさって、サルモネラ菌による食中毒のリスクをかなり低く抑えています。

ただし「絶対に安全」という意味ではなく、買ったあとの冷蔵保存や、割ったらすぐ食べるといった家庭での扱いも仕組みの一部です。

生卵は世界的には珍しい食べ方

熱いご飯に生卵を落としてしょうゆを垂らす「卵かけご飯」(TKGと略されることもあります)や、すき焼きの肉をくぐらせる溶き卵は、日本ではごく普通の食べ方です。一方で、農畜産業振興機構(ALIC)は、卵を生で食べるのは世界的には珍しい食文化だと紹介しています。

たとえば米国疾病管理予防センター(CDC)は2016年、サルモネラ症を防ぐために生や半生の卵を食べないよう呼びかけました。内閣府の食品安全委員会はこれについて、米国にはもともと生卵を食べる習慣がないことを踏まえた呼びかけだろうと説明し、日本では生食を前提にした衛生管理があるため安心して食べられる、としています。

もっとも、生卵を使う料理は日本だけのものではありません。農林水産省は、韓国のユッケやポーランドのタルタルステーキのように海外にも生卵を使う料理があること、香港やシンガポールでは日本式の卵かけご飯も食べられていることに触れています。

転機は1990年代のサルモネラ食中毒

今の仕組みができたきっかけは、1990年代に卵が原因と見られるサルモネラ食中毒が増えたことです。1998年に国の食品衛生調査会がまとめた意見具申によると、サルモネラ・エンテリティディス(SE)という種類の菌による食中毒が増えており、原因食品として「卵類及びその加工品」が1994年以降増えていました。1992年以降に報告されたSE食中毒224件のうち、約9割は殻付き卵が原因と確定または疑われるものでした。

このとき調査会は、日本には生卵を食べる習慣があるのだから、それを前提にした対策が必要だという考え方をはっきり示しました。そのうえで、農場から食卓まで各段階で対策を積み重ねること、生食用の卵に期限表示を義務づけること、GPセンターでの衛生管理を徹底すること、家庭向けの取り扱いマニュアルを作ることなどを提言しました。これを受けて1999年に食品衛生法施行規則が改正され、殻付き卵の賞味期限は「生で食べても問題がない期限」を表示することになりました。

提言には、ひどく割れた卵などを食用にしないこと、生食用以外の卵を使う食品は必ずどこかの段階で加熱してサルモネラを殺菌すること、割った卵を集めた「液卵」(業務用の卵液)の規格を定めることなども含まれていました。当時の報告を見ると、SE食中毒の発生場所は飲食店が71件と最も多く、給食施設44件、弁当製造施設39件と続き、家庭でも32件起きていました。お店だけでなく家庭での扱いまで含めて対策を考えたのは、こうした実態があったからです。

参考として、1992年の国の調査では殻付き卵2万4,000個のうち6個(0.03%)からSEが見つかっていました。後で紹介する2020年の調査結果と比べると、この30年ほどで状況が大きく改善したことが分かります。

農場からスーパーまで、いま行われていること

ALICによると、養鶏場では車両の消毒、作業服や靴の履き替え、手指の消毒、防鳥ネットなどで野鳥や野生動物が入り込まないようにする対策、エサへの動物の侵入を防ぐ管理などが行われています。

集められた卵はGPセンター(Grading & Packingの略)に運ばれ、表面の汚れを落とす洗卵、紫外線による殺菌、専用機械でのひび割れチェック、サルモネラ菌の抜き取り検査などを経ます。人の目による確認も複数の工程で行われ、基準に合わない卵を取り除いてから店に出荷されます。

その結果はデータにも表れています。農林水産省が2020年に全国の店で買った1,870パック分の卵を調べたところ、卵の中身からSEが見つかったのは1点だけで、1個あたりに換算すると汚染率は0.0027%程度と試算されました。同省は、厚生労働省の食中毒統計で卵やその加工品が原因のサルモネラ食中毒の届出が2015年以降年0〜2件で推移していることにも触れ、汚染は低い水準に保たれているとしています。

賞味期限の意味が海外とは少し違う

日本の卵パックの賞味期限(best-before date)は、「冷蔵(10℃以下)で保存した場合に生で食べられる期限」を示しています。農林水産省によると、現在は家庭の冷蔵庫での7日間の保管も含めて、最長で産卵から21日を目安に設定されています。食品安全委員会は、実際にはパック詰めから2週間程度を期限にしている場合が多いと説明しています。

逆に言えば、期限を過ぎた卵はすぐ捨てるものではなく、「加熱して食べる卵」に変わるということです。割ってみて状態に問題がなければ、しっかり火を通せば食べられるとされています。加熱の目安は、農林水産省は食品全体が70℃に達するまで、食品安全委員会は75℃以上で1分以上と、機関によって書き方が少し異なります。

なお、1998年の国の提言では、WHO(世界保健機関)が殻付き卵の輸送や保管を10℃以下で行うよう勧めていたことや、英国やドイツで期限表示と購入後の冷蔵保存の表示が義務づけられていたことも参考にされました。日本の仕組みは、海外の知見も取り入れながら「生で食べる」という自国の習慣に合わせて作られたものだと言えます。

訪れた人が驚くことと、注意したいこと

日本では、定食屋やすき焼き店で生卵がそのまま添えられて出てくることも珍しくなく、驚く旅行者も多いはずです。ALICによると、生で食べられる日本の卵の品質は海外でも評価され、輸出量も年々増えています。

とはいえ、安全性は日本国内の仕組みの中で保たれているものです。食品安全委員会は、高齢者、2歳以下の乳幼児、妊娠中の人、免疫機能が低下している人は生卵を避け、十分に加熱した卵料理にするよう勧めています。また、卵を割って黄身と白身を混ぜた状態で室温に置いておくと菌が増えやすいという報告もあるため、割るのは食べる直前にするのが基本です。

日本の卵を自宅に持ち帰って洗う必要はありません。すでにGPセンターで洗浄・殺菌されていて、家で水洗いすると殻の無数の小さな穴(気孔)から水と一緒に雑菌が入るおそれがあるためです。汚れが気になるときは拭き取るか、使う直前に洗うよう勧められています。

冬になると鳥インフルエンザのニュースを目にすることがありますが、食品安全委員会は、日本の現状では鶏肉や鶏卵を食べて人が感染する可能性はないと考えている、としています。農林水産省によると、発生した農場の鶏はすぐに殺処分されるため、その農場の肉や卵が市場に出回ることはありません。

ヒント

  • 生で食べるなら、パックの「賞味期限」内のものを選びましょう。日本ではこの日付が生食できる期限を意味します。
  • 買った卵はすぐ冷蔵庫へ。日本の賞味期限は10℃以下での保存が前提です。
  • 卵は食べる直前に割り、溶いた卵を室温に置きっぱなしにしないようにしましょう。
  • ひびの入った卵や賞味期限切れの卵は、生ではなく中までしっかり加熱して食べましょう。
  • 妊娠中の人、小さな子ども、高齢者、体調が悪い人は生卵を避け、加熱した卵料理を選ぶのがおすすめです。
  • 海外で同じように生卵を食べるのは避けましょう。生食を前提とした管理は国や地域によって異なります。

出典

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