Why Japan? · 食

なぜ日本の果物はあんなに高いの?

1個数千円の桃も、1万円超のメロンも。高さの理由は、贈り物の文化と、手間のかかる作り方にあります。

Rows of perfectly shaped melons, peaches and grapes displayed like jewels in a Japanese fruit shop
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本の果物が高く見える大きな理由は二つあります。一つは、果物を「特別な贈り物」として贈る文化があり、見た目も味も完璧な高級品の市場が育ったこと。もう一つは、山がちな土地の小さな農家が、機械化しにくい手作業で一つひとつ丁寧に育てていることです。

ただし、デパートや専門店に並ぶ贈答用と、スーパーの日常用では値段がまったく違います。旅行者が驚く「1個数千円」は、主に贈答用の世界の話です。

果物は「水菓子」、そして贈り物

日本では昔から、懐石料理(茶の湯の席などで出る伝統的なコース料理)で果物を「水菓子(みずがし)」と呼び、お菓子の一つとして扱ってきました。nippon.comによれば、桃、梨、ぶどう、柿などの香りのよい果物は、特に「菓子」として重んじられてきたそうです。

季節の果物を、お中元(夏の贈り物)やお歳暮(年末の贈り物)として贈る習慣も、江戸時代初期から根付いているとされます。高度経済成長期(1950年代半ば〜1970年代初め)の直前までは、果物そのものがぜいたく品で、お祝いの日に食べる物でした。

東京・日本橋の千疋屋総本店は、江戸で「水菓子安うり処」として始まり、三代目の時代に日本で最初の果物専門店になったと伝えています。nippon.comの取材では、同店の売り上げの98%を贈答品が占めていました。贈り物である以上、おいしいのは当然で、形や色の美しさ、粒のそろい方まで求められます。そこで、マスクメロンが1個1万円を超えたり、白桃1個が数千円になったりするのです。

この値段には昔から外国人が驚いてきました。アメリカのコラムニスト、デイヴ・バリーは1990年代初めの著書で、一流デパートの木箱入りメロンが1個75ドルもしたことに目を丸くしています。nippon.comの取材でも、店を訪れたイギリス人の弁護士が、粒のそろったブドウの見事さに感心しつつ、1個3,780円の白桃には「ロンドンの高級百貨店でもせいぜい5ポンド」と驚いていました。

仕入れ方も違います。nippon.comで逗子の老舗果物店の店主が語ったところでは、同じ東京の中央卸売市場から仕入れていても、一般の店は状態のよい1ケースを買うのに対し、高級専門店は30ケースほどの中から選りすぐりを集めて1ケースを作らせるそうです。

手間のかかる作り方と小さな農家

農林水産省の資料によると、果樹は傾斜地での栽培が多く、剪定(せんてい、枝を切って形を整える作業)などに高い技術が必要なため、機械化が進んでいません。10アール(1,000平方メートル)あたりの年間労働時間は、稲作の約12時間に対し、みかんで約170時間、りんごで約260時間、ぶどうでは約307時間にもなります。

みかん畑は4割以上が傾斜15度以上の急斜面にあり、段々畑では軽トラックも入れない場所があります。また、実を間引く「摘果(てきか)」や受粉の管理など、手作業の工程がたくさんあります。代表的なのがマスクメロンの「一木一果(いちぼくいっか)」で、1本の木に実を1つだけ残し、養分を集中させて香りと甘さを高めます。

nippon.comによれば、日本の果樹農家は小規模な家族経営が多く、2010年には8割以上が2ヘクタール以下でした。大規模に安く作るのが難しいぶん、手間をかけて単価の高い果物を作る方向に進んだのです。

ヨーロッパとの違いもあります。nippon.comによると、フランスの果樹農家の平均栽培面積は29ヘクタール(2010年)で、100ヘクタールを超える大規模経営も増えています。ヨーロッパでは硬水が多く、果物は水分やビタミンをとるための生活必需品として大量に作られ、ワインやジャムなどに加工されることも多いため、見た目はそれほど重視されません。反対に、良質な水に恵まれた日本では、果物はむしろ嗜好品(しこうひん、楽しみのために味わう物)と見られるようになった、と説明されています。

作る人が減り、値段は上がっている

日本の果物の生産量は1979年をピークに減り続けています。農林水産省は、高齢化や後継者不足で生産の基盤が弱くなり、栽培面積も生産量も減っていると説明しています。その一方で、国内外での需要は底堅く、国産果物の卸売価格は上昇傾向にあります。

現在、国内に出回る果物のうち国産は約4割で、残りの約6割は輸入品です。ただし、輸入品の約6割は果汁などの加工品で、国産品の9割が生で食べる果物として出回っているのとは中身が違います。つまり、店頭で見かける生の果物の多くは、手間をかけて作られた国産品なのです。

さらに、果物づくりは収穫期などに作業が極端に集中するため、一年を通して人を雇うのが難しく、臨時の働き手に頼っています。人口が減る中で、この働き手の確保も大きな課題です。こうした人手とコストの問題も、値段に反映されています。

旅行者が驚くポイント

北海道の夕張メロンの初競り(その年最初の取引)は毎年ニュースになり、2026年5月には2玉580万円という過去最高額で落札されました。それまでの最高は2019年の500万円です。ただしこれは、縁起物や宣伝としての特別な価格で、店頭の値段とは別物です。

意外なことに、日本人自身は果物をあまりたくさん食べていません。農林水産省によると1人1日あたりの果物の摂取量は緩やかに減っていて、よく食べているのは70歳以上です。消費者からは「見た目は良くなくても安い物」がほしいという声も上がっています。nippon.comが紹介した農林水産省の試算(2011年)では、1人あたりの果物の量はイタリアの約149キロ、フランスの約116キロに対し、日本は約51キロでした。

上手に日本の果物を楽しむには

日常用なら、デパートや専門店ではなく、スーパーや街の八百屋(やおや、青果店)へ。同じ市場から仕入れていても、贈答用の店は大量の中から特に形のよいものだけを選び抜いているため、値段が大きく変わります。

旬(しゅん、いちばんおいしい時期)を選ぶのもポイントです。一方で、せっかくなら一度は最高級品を1個だけ買って、ふだんの果物と食べ比べてみるのも、日本ならではの体験になるでしょう。千疋屋のような老舗では、フルーツパーラー(果物を使ったデザートを出す喫茶店)で、高級果物を一皿のデザートとして味わうこともできます。

ヒント

  • 普段食べる果物はスーパーや八百屋で。贈答用の専門店とは価格帯がまったく違います。
  • 旬の季節に、産地の近くで買うと手頃でおいしい果物に出会えます。
  • 高級フルーツは、専門店のフルーツパーラー(果物を使ったデザートの喫茶店)でパフェとして味わうのも一つの方法です。
  • 日本の家庭を訪ねるときは、季節の果物は喜ばれる手土産になります。

出典

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