なぜ日本人はお辞儀をするの?どのくらい頭を下げればいい?
お辞儀はあいさつ・感謝・謝罪を一つでこなす万能の動作。旅行者は軽い会釈ひとつで十分に気持ちが伝わります。
ざっくり言うと
お辞儀(おじぎ)は、日本で「こんにちは」「ありがとう」「すみません」を体で伝えるあいさつです。頭を下げる深さで気持ちの強さを表すのが特徴で、ビジネスの場では約15度・約30度・約45度の三段階が目安としてよく説明されます。
とはいえ、旅行者が角度まで完璧にこなす必要はありません。上半身を軽く傾けるだけの会釈(えしゃく)ができれば、日常のほとんどの場面で十分に礼儀正しく見えます。
お辞儀はどこから来たのか
由来には諸説あります。よく紹介されるのは、急所である頭を相手の前に差し出すことで「敵意はありません」と示したのが始まりだ、という説明です。nippon.comの解説によれば、この作法は奈良時代(8世紀)より前に中国から伝わり、中世に武家(ぶけ、武士の家)の礼法として形が整えられていきました。
鎌倉時代に武士の政権ができて以降、武士の礼儀作法は洗練されていき、室町時代には今川流・伊勢流・小笠原流(おがさわらりゅう)といった礼法の流派が生まれました。なかでも小笠原流は、現代でもお辞儀の作法の代表としてよく名前が挙がります。江戸時代にはさらに武田流や吉良流といった流派も加わりました。ちなみに「お辞儀」という言葉が今のような「頭を下げるあいさつ」の意味で使われるようになったのは、江戸時代の後半だとされています。
明治時代になると西洋文化が一気に入り、武家の文化は急速に軽く見られるようになりました。武士の作法だった小笠原流も、その役割を女子教育(女性向けの礼儀作法の教育)へと移していきます。それでもお辞儀そのものは消えず、1941年には当時の文部省が「礼法要項」をまとめ、全国で教える礼儀作法の基準を示しました。こうしてお辞儀は、武士の作法から国民全体の日常的なあいさつへと広がっていったのです。
角度の目安:会釈・敬礼・最敬礼
現代の立ったままのお辞儀(立礼、りつれい)は、一般に次の三つに分けて説明されます。会釈(えしゃく)は約15度で、廊下ですれ違うときや店に入るときなどの軽いあいさつ。敬礼(けいれい)は約30度で、お客さまを迎えるときや商談のあいさつなど改まった場面。最敬礼(さいけいれい)は約45度以上で、深い感謝や正式な謝罪を表します。
ただし、この数字は流派や解説によって少しずつ違います。例えば敬礼を45度、最敬礼を直角に近い深さとする解説もあります。大事なのは正確な角度より、「軽い・ていねい・とても深い」という三段階の感覚です。
美しく見せるコツは、首だけを曲げずに腰から上体を傾け、背筋をまっすぐに保つことです。また「礼三息(れいさんそく)」という考え方があり、息を吸いながら体を倒し、下げきったところで息を吐き、また吸いながら体を起こします。呼吸に合わせることで、慌ただしくない落ち着いたお辞儀になり、相手とタイミングも合わせやすくなるといいます。
畳の上で正座したまま行うお辞儀は座礼(ざれい)と呼ばれ、こちらにも深さの段階があります。最もていねいな座礼では胸がひざに近づくほど深く体を倒し、中くらいの座礼では顔が床から30センチほどの高さまで、軽い座礼では30度ほど体を傾けるのが目安とされます。小笠原流には、手や指の置き方で敬意の度合いを九段階に分ける「九品礼(くほんれい)」という細かな作法まであったそうですが、明治以降、日常ではほとんど使われなくなりました。旅館の仲居さん(客室係)のあいさつや、茶道の体験などで座礼を見かけることがあるかもしれません。
今の日本での使われ方
お辞儀は特別な儀式ではなく、毎日の暮らしのあちこちに登場します。お店のスタッフが入店や会計のときに頭を下げるのも、会社で上司や取引先にあいさつするのも、同じお辞儀の仲間です。
お辞儀で伝える気持ちは、大きく分けると敬意・感謝・謝罪の三つです。同じように頭を下げても、あいさつの場面なら「よろしくお願いします」、何かをしてもらった後なら「ありがとうございます」、失敗した後なら「申し訳ありません」という意味になります。言葉と組み合わせることで、どの気持ちなのかがはっきり伝わるのです。
特にビジネスの世界では、相手の立場に合ったお辞儀ができないと失礼だと受け取られることがあるため、多くの会社が新入社員研修で角度や姿勢を練習させます。日本人にとっても、お辞儀は自然に身につくものというより、学んで磨くマナーの一つなのです。
外国人がよく驚くポイント
一つ目は、お辞儀が「ごめんなさい」だけの意味ではないことです。例えばスポーツ選手が試合のあとに観客席へ深く頭を下げる姿は、負けを謝っているように見えるかもしれませんが、多くの場合は応援への感謝を伝えています。
二つ目は握手との関係です。日本では握手の習慣はそれほど根付いておらず、初対面のあいさつもお辞儀が基本です。握手をする場合は、相手の目を見てしっかり手を握るのが一般的で、握手しながら同時に深く頭を下げると、どっちつかずで誠意が伝わりにくいとする解説もあります。握手を差し出されたら握手で、お辞儀をされたら軽いお辞儀で、と相手に合わせて一つずつ返せば十分です。
お辞儀は日本だけのものではない
頭や体を傾けて敬意を示す習慣は、日本だけのものではありません。ヨーロッパでもかつては男性がお辞儀をし、女性はひざを軽く曲げる「カーテシー」をするのが礼儀でした。今では儀礼的な場面に限られますが、イギリス連邦の国々の法廷では、今も裁判官に向かって一礼する習慣が残っています。
一方で、宗教上の理由から人に向かって頭を下げない人もいます。日本のお辞儀は宗教的な礼拝ではなく、あいさつや感謝の表現なので、無理に合わせる必要はありません。言葉でていねいにお礼を伝えたり、軽くうなずいたりするだけでも、相手を大切に思う気持ちは十分に伝わります。
旅行者・新しく住む人はどうすればいい?
日本政府観光局(JNTO)も、非常にフォーマルな場面でない限り、外国の人がお辞儀のルールを細かく覚える必要はないと案内しています。そのうえで、あいさつのときや、お店に入る・出るときに軽く頭を下げるだけで、気持ちは十分伝わるとしています。
迷ったら、お礼を言うときに会釈を添えるところから始めましょう。宿のスタッフに見送られたとき、道を教えてもらったとき、電車で席を譲られたときなど、「ありがとうございます」と言いながら少し頭を下げるだけで、ぐっと印象がやわらかくなります。日本で働く・暮らす人は、職場の人がどの場面でどれくらい頭を下げているかを観察して、少しずつまねしていくのが一番の近道です。
ヒント
- 迷ったら約15度の軽い会釈で十分。お礼の言葉と一緒に添えると自然です。
- 首だけをかくっと曲げず、腰から上体を傾けて背筋を伸ばすときれいに見えます。
- 深いお辞儀(30〜45度)は、正式なあいさつや心からの感謝・謝罪のときに取っておきましょう。
- 握手を求められたら握手で応えればOK。握手と深いお辞儀を同時にしなくて大丈夫です。
- 店員さんのお辞儀に同じ深さで返す必要はありません。軽くうなずく程度で失礼にはなりません。