なぜ日本人は毎晩お風呂に入るの?
日本のお風呂は「体を洗う場所」ではなく「温まって一日をリセットする場所」。夜に入る理由も、そこにあります。
ざっくり言うと
日本のお風呂は、汚れを落とすだけの場所ではありません。体はお湯に入る前に洗い、湯船(ゆぶね。お湯をためた浴槽)には温まってくつろぐために入ります。一日の疲れを取り、ぐっすり眠るために夜に入る、というのが典型的なスタイルです。
ただし「全員が毎晩湯船に入る」わけではありません。調査では、冬に毎日湯船につかる人は半数ほどで、暑い時期はシャワーだけで済ませる人も多く、シャワー派は年代を問わず増えています。
お寺の「施浴」から江戸の銭湯へ
東京都浴場組合によると、日本の入浴文化の始まりには仏教が深く関わっています。6世紀に伝わった仏教は体を清めることの功徳を説き、寺院では貧しい人々にも風呂をふるまう「施浴(せよく)」が盛んに行われました。奈良の東大寺には今も大湯屋(おおゆや)が残っています。平安時代の末には、京都に銭湯のはしりともいえる「湯屋」が登場しました。
鎌倉・室町時代になると、施浴は武家や貴族にも広がります。源頼朝が1192年に後白河法皇の供養として100日間の施浴を行ったことは記録にも残っています。やがて風呂のある家が客を招いて風呂をふるまい、湯上がりに茶や酒を楽しむ「風呂ふるまい」も生まれました。お風呂は早くから、人をもてなし、人が集まる場でもあったのです。
江戸で最初の銭湯は、1591年に建てられたと記録されています。17世紀の初めには「町ごとに風呂あり」といわれるほど広まり、身分に関係なく裸で付き合える庶民の憩いの場になりました。当時の銭湯は朝から湯を沸かし、夕方6時ごろに営業を終えました。2階の広間では湯上がりの客がお茶を飲んだり囲碁や将棋を楽しんだりと、銭湯は町の社交場でもありました。初期の銭湯は蒸し風呂のようなものでしたが、同じころ、たっぷりのお湯に首までつかる「据風呂(すえふろ)」が生まれ、家庭にも広がっていきます。
江戸の銭湯は長く男女混浴で、幕府は何度も禁止令を出しました。天保の改革(1841〜43年)で取り締まりが厳しくなり、浴槽に仕切りを付けたり男女で日を分けたりする銭湯が現れます。実際に混浴がなくなったのは明治の中ごろだそうです。
明治時代になると銭湯は明るく広い造りに改良され、昭和初期には蛇口(カラン)も取り付けられました。東京都内の銭湯は今も約430軒が営業しています(2024年11月時点)。
「毎日」は意外と新しい習慣
毎日入浴する習慣が全国に広まったのは、実はそれほど昔のことではありません。家庭にガスの湯沸かし器や水道が行き渡った1950〜70年代の高度経済成長期以降に、自宅にお風呂がある暮らしが当たり前になったためです。それまでは銭湯に通う家庭や、ドラム缶を使った手作りの風呂に入る家庭も珍しくありませんでした。
家庭の浴室も大きく変わりました。1958年には、繊維強化プラスチック(FRP)の浴槽と湯を循環させて温める釜を組み合わせた製品が発売され、団地や一般家庭に普及します。1960年代半ばからは、工場で作った部品を現場で組み立てる「ユニットバス」も広まりました。ホテル以外の日本の住宅では、トイレと浴室を別にする造りが今も主流です。
では、なぜ朝ではなく夜なのでしょうか。よく挙げられるのは、一日の汗や汚れを落として布団やベッドに入りたい、温まってリラックスしてから眠りたい、という理由です。入浴の研究者は、40度のお湯に10分つかり、寝る90分ほど前に上がるのが体に良い入り方だとすすめています。
今の日本人のお風呂事情
給湯器メーカーのリンナイが2023年に全国47都道府県で行った調査では、53%の人が「冬は毎日湯船につかる」と答え、湯船に入らず毎日シャワーだけという人は17%でした。好みのお湯の温度は40度が最も多く31%、つかる時間は10〜14分が最多でした。都道府県別では、富山県が平均41.3度で最も熱いお湯を好み、山梨県が平均17.8分で最も長風呂だったそうです。
東京ガスの都市生活研究所が首都圏の2,600人を対象に2025〜2026年に行った調査では、「入浴が好き」という人はどの年代にも共通していました。一方で、全体では「暑い時期はシャワー、それ以外は湯船」というスタイルが最も多く、かつては20代に多かった「シャワー派」が30代以上でも増えています。冬の平日の入浴時間は平均約26分、そのうちお湯につかっている時間は約11分でした。年代別では、10代男性はつかる時間が約15分と最も長く、10代女性は入浴時間全体が約32分と最も長く、その3割以上が湯船の中でスマートフォンを使っていました。入浴を面倒に感じて控えることを指す「風呂キャンセル界隈」というネットスラングも、10代の7割以上が知っていたそうです。
一方で、浴室への不満では「寒さ」や「カビ」が上位に挙がり、浴室掃除を面倒に感じる人も多いようです。浴室掃除を自動でしてくれる機械や外部の掃除サービスにお金をかけてもいいと考える人は、2014年や2019年の調査より増えていました。お風呂好きは変わらなくても、手間はできるだけ減らしたい、というのが今の本音なのかもしれません。
外国から来た人が驚くポイント
最初に戸惑うのは「湯船の中で体を洗わない」ことでしょう。日本では、浴槽に入る前に洗い場で体を洗うか、少なくともお湯をかけて汚れを流すのがマナーです。「アメリカ人は体をきれいにするために風呂に入るが、日本人は体をきれいにしてから風呂に入る」という言い回しもあるほどです。
もう一つ知っておきたいのが、冬のお風呂の危険です。消費者庁によると、高齢者が家の浴槽でおぼれて亡くなる事故は、近年では交通事故の死者数より多くなっており、11月から4月の寒い時期に集中しています。暖かい部屋と冷えた脱衣所や浴室の温度差が体に負担をかけるためで、消費者庁は脱衣所を暖める、お湯は41度以下、つかるのは10分までを目安にする、などの対策を呼びかけています。
日本のお風呂を楽しむコツ
家庭や旅館、銭湯のどこで入るにしても、基本は同じです。まず洗い場で体と髪を洗い、泡をきれいに流してから湯船に入りましょう。湯船はタオルを入れずに、静かにつかる場所です。
町の銭湯は、日本の日常のお風呂文化を気軽に体験できる場所です。旅の疲れを取りたい夜に、近くの銭湯を探してみてはいかがでしょうか。
ヒント
- 湯船に入る前に、洗い場で体を洗ってしっかり泡を流しましょう。湯船の中で石けんを使うのはマナー違反です。
- 熱いお湯が苦手なら無理せず、短時間から試しましょう。目安は40度前後に10分ほどです。
- 冬は脱衣所や浴室を暖めてから入り、湯船から急に立ち上がらないようにしましょう。食後すぐや飲酒後の入浴も避けてください。
- 一緒に暮らす人がいれば、入浴前に一声かけておくと安心です。
- 町の銭湯は手頃な料金で入れる地元の人の憩いの場です。旅先でも気軽に日本のお風呂文化を体験できます。