Why Japan? · マナー

なぜ日本では麺をすすってもいいの?

音を立てて食べるのは日本でも本来マナー違反。それでも麺だけが許される理由は、江戸の屋台と「香り」にありました。

Two people seen from behind eating noodles at a steamy, lantern-lit soba stall on an autumn evening
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本でも、音を立てて食べるのは基本的には行儀が悪いとされています。それでも麺類だけは例外で、ラーメン店やそば屋では多くの人がズルズルと音を立ててすすります。

よく挙げられる理由は二つあります。一つは、そばが江戸(今の東京)の庶民が屋台で急いで食べる「ファストフード」だったこと。もう一つは、空気と一緒にすすることで香りを感じやすくなることです。ただし、すするのは義務ではありません。音を立てずに食べても、まったく問題ありません。

日本でも「音を立てる」は本来NG

まず知っておきたいのは、日本人が何でも音を立てて食べるわけではない、ということです。そば好きのフードライターがnippon.comに寄せた記事によると、日本でも音を立てて食べることは一般に嫌われ、特に改まった席ではなおさらです。

そのなかで、麺類だけに「特別な例外」が認められている。これが外国から来た人を驚かせるポイントです。スパゲッティや中国の麺など、麺料理は世界中にありますが、すすることがはっきり受け入れられている国はほとんどない、と同じ記事は指摘しています。

始まりは江戸のそば屋台

そばが歴史の記録に登場するのは江戸時代(1603~1868年)の初めごろです。17世紀の終わりには江戸の町にそば屋が増え、はじめはうどんのついでのメニューだったそばが、やがて江戸の名物になりました。1800年ごろの江戸には約700軒のそば屋があり、飲み屋(居酒屋)に次ぐ数の飲食店だったといいます。

当時の江戸は人口約100万人の大都市でした。忙しい町人は、屋台や、天秤棒をかついで夜の町を売り歩く「夜鷹(よたか)そば」でそばを買い、立ったまま手早く食べて仕事に戻りました。東京都の公式観光サイト「GO TOKYO」も、そばを寿司や天ぷらと並ぶ江戸の町人の「粋(いき)なファストフード」だったと紹介しています。「粋」は、さっぱりとして格好いい、という江戸っ子の美意識を表す言葉です。

そばが江戸で人気になった理由の一つは栄養です。そばの実は精白した小麦粉に比べてたんぱく質やビタミンB群が多く、種まきから収穫まで2か月半~3か月と早く育ちます。堀井さんは、競争の激しい大都市では手早く栄養のとれる食事が必要だったことが、そばが江戸に根づき、関西(京都・大阪)ではうどんが主役であり続けた理由の一つかもしれない、と話しています。

東京・麻布十番にある創業1789年の老舗そば店「更科堀井」の店主・堀井さんは、そばは庶民の食べ物だったので、人々は堅苦しいテーブルマナーをあまり気にしなかったと話しています。立ち食いの屋台で急いで食べるなら、すするのは自然なこと。この習慣がそば屋台から広まり、今のラーメンなどほかの麺の食べ方にも受け継がれた、というのが記事の見立てです。ただし、これはあくまで「もっともらしい説明」で、はっきりした記録が残っているわけではありません。

すすると、何がおいしくなるのか

堀井さんは、すするのは「そばの香りをよく味わうため」だと説明します。ワインのテイスティングでは、グラスの香りを鼻でかぐだけでなく、口に含んで、喉から鼻へ抜ける香りも味わいます。冷たいそばは湯気が立たないので、鼻を近づけてもあまり香りがしません。そこで勢いよくすすって、口の中から鼻に抜ける香りを楽しむ、というわけです。

GO TOKYOも、空気と一緒に香りを取り込むことで風味が豊かに感じられるので、そばは音を立ててすすってかまわないと書いています。そして、香りをいちばん感じられるのは「ざる」や「せいろ」などの冷たいそばだとしています。

もう一つよく聞くのは、熱い麺を空気で冷ましながら食べられるという説明です。熱々のラーメンやうどんを、冷めるのを待たずに食べるための工夫というわけです。どちらの説も、科学的にきっちり証明された話というより、食べる人たちの経験から語られてきたものと考えておくとよいでしょう。

GO TOKYOは、寿司や天ぷらのように「静かに味わう」和食とは違い、そばは「勢いよくすする」ことがおいしさにつながる、それが東京のそばの魅力だとまで書いています。同じ和食でも、料理によって「よい食べ方」が違うというのは面白いところです。

「ヌーハラ」騒動と、外国人が驚くこと

2016年10月、SNSで「ヌードルハラスメント(ヌーハラ)」という言葉が話題になりました。麺をすする音が外国人を不快にさせる「ハラスメント(嫌がらせ)」だ、という主張で、新聞やテレビも取り上げました。ただ、nippon.comの記事は、この騒ぎはほとんど根拠のないところから作られたものだったと振り返っています。

とはいえ、初めて日本の麺屋に入った外国人が、周りのズルズルという音に驚くのは本当によくあることです。反対に、欧米の「すすらない」習慣に合わせた例もあります。アメリカで売られているカップヌードルは、すすらずにすくって一口で食べられるよう、麺が短くなっているそうです。

日本政府観光局(JNTO)も、多くの店で客は麺をすすって食べ、それは一般に受け入れられた食べ方だと説明したうえで、地元の人の食べ方をばかにしないこと、そして自分がすする必要はないことを伝えています。

更科堀井では英語のパンフレットで、そばの食べ方を絵入りで紹介しているそうです。店では近所の年配の常連客が、外国人客に気さくにすすり方のコツを教えることもあると、記事は伝えています。

麺屋で困らないために

すするのが苦手でも、気にする必要はありません。堀井さん自身、「食べ方を人に指図することはしない。すすれない人はかめばいい。大事なのはおいしく食べてもらうこと」と話しています。箸で少しずつ口に運び、レンゲ(中華料理のスプーン)を使って食べても大丈夫です。

冷たいそばを食べるなら、東京のつゆは味が濃いので、そばの先を軽くつける程度がおすすめだとGO TOKYOは紹介しています。食べ終わったら、そばをゆでたお湯「そば湯」を残ったつゆに注いで飲むのが東京流の締めくくりです。そば湯にはゆでたときに溶け出したルチンや食物繊維が含まれ、料理を最後まで味わい尽くすという意味もあるそうです。

音について寛容な店でも、大声での会話や電話は控えるのがマナーです。昼どきの混んだ店では長居をせず、食べ終わったらさっと席を立つのが、江戸から続く「粋」なふるまいとされています。

ヒント

  • すすってもすすらなくても、どちらでも失礼にはなりません。自分が食べやすい方法で大丈夫です。
  • そばの香りを味わいたいなら、まずは冷たい「ざるそば」や「せいろ」を試してみましょう。
  • 冷たいそばは、つゆにどっぷり浸さず、先の方だけ軽くつけて食べると、そばの香りとつゆの味の両方を楽しめます。
  • 冷たいそばを頼むと、最後に「そば湯」が出てくることがあります。残ったつゆに注いで飲んでみましょう。
  • そばはアレルギーを起こしやすい食べ物です。心配な人は事前に確認しましょう。
  • 麺はすすってもいいですが、店内での大声の会話や電話は控えましょう。

出典

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