すき焼き
甘辛いたれで牛肉を煮て、溶き卵にくぐらせて食べる。明治の「文明開化の味」だった牛鍋から生まれたすき焼きは、関東と関西で作り方がまるで違います。
全国で食べられている料理
本場として知られるのは 神奈川県・東京都・群馬県・三重県。
すき焼きとはどんな料理?
すき焼きは、浅い鉄鍋で薄切りの牛肉と、長ねぎ、春菊、焼き豆腐、しらたき(こんにゃくを糸のように細くしたもの)、白菜などを、醤油・砂糖・酒で作った甘辛い味で煮る鍋料理です。煮えた具は、小鉢に割りほぐした生卵につけて食べるのが定番です。
昔は店で食べるのが一般的でしたが、今では家庭でもよく作られます。スーパーや精肉店では「すき焼き用」の薄切り牛肉も売られています。
農具の「鋤」と、横浜の牛鍋
「すき焼き」の名前は、農具の鋤(すき:土を掘り起こす道具)に由来するとされます。江戸時代中期の関西には、鋤を鉄板の代わりにして魚や貝を焼く料理があり、その鋤で牛肉を焼いたものを「鋤焼(すきやき)」と呼ぶようになった、というのが語源の説明です。
日本では675年に天武天皇が出した命令以来、牛や馬は大切な働き手であったことなどから、表向きは食べられない時代が長く続きました。状況が変わったのは幕末から明治にかけてです。1859年に横浜港が開かれると、外国人が食べる牛肉料理の影響を受けて、1862年に横浜の居酒屋の主人が最初の牛鍋屋を開いたといわれます。牛肉を嫌う人も多く、店の半分を居酒屋、半分を牛鍋屋にしていたそうですが、日本人好みの味付けが評判を呼び、周囲にも牛鍋屋が次々と生まれました。
東京でも「牛鍋」の店が大流行し、牛鍋は文明開化(明治の西洋化)を代表する食べ物になりました。初めは肉の臭みを消すために味噌味が主流でしたが、肉質がよくなるにつれて、豆腐やしらたきが加わり、醤油・砂糖・酒のたれで煮るようになっていきました。
関東は「煮る」、関西は「焼く」
すき焼きは、東西で作り方が大きく違う料理です。関西の家庭では、熱した鍋で牛肉を焼き、そこに砂糖と醤油を加えて味付けします。一方、関東の家庭では、割り下(わりした:醤油・砂糖・酒などをあらかじめ合わせたたれ)を煮立たせ、肉と野菜を一緒に入れて煮るのが主流です。
関東の「牛鍋」が「すき焼き」と呼ばれるようになったきっかけは、1923年の関東大震災だといわれます。震災で東京の牛鍋屋の多くが店を閉め、その間に関西の「すき焼き」の名前と店が広まって、呼び名が統一されていきました。現在は東京の老舗でも、熱した鍋に牛脂を溶かして肉を焼いてから具と調味料を入れる、関西と同じ作り方が主流です。逆に大阪の飲食店では、店ごとの味を出しやすい割り下を使う関東風が多いそうです。
横浜、群馬、松阪:各地のすき焼き
神奈川県横浜市では、今も明治時代に創業した店が「牛鍋」を出しています。すき焼きは肉を焼いてから煮るのに対し、牛鍋は最初から具をたれで煮るのが違いで、肉が薄切りか角切りか、たれが醤油味か味噌味かも店によって異なります。市内の小学校では毎年1月に、牛鍋をアレンジした「すき焼き風煮」が給食に出されます。
群馬県は2014年に「すき焼き応援県」を宣言しました。上州牛、下仁田ねぎ、生産量全国1位のこんにゃく芋から作るしらたきなど、すき焼きの材料をすべて県内産でそろえられるのが自慢です。11月29日の「ぐんま・すき焼きの日」には、県内の多くの学校の給食にすき焼きが出されます。
三重県の松阪市は、ブランド牛「松阪牛」の産地で、すき焼きの街として知られています。
どこで、どう食べる?
すき焼きは全国の専門店や和食店、家庭で食べられます。明治時代から続く老舗のすき焼き店は、東京の浅草などに今も残っています。食べ方は、鍋で煮えた肉や野菜を取り、小鉢の溶き卵にくぐらせて口に運びます。卵をつける理由については、熱さを和らげるため、濃い味をまろやかにするためなど諸説あり、はっきりしていません。
食事制限のある方へ:すき焼きには牛肉が使われ、たれには醤油、砂糖、酒(またはみりん)が入ります。また、生卵をつけて食べるのが一般的です。生卵が苦手な方や牛肉を避けたい方は、注文の前に店に相談してください。
ヒント
- 関東と関西の両方を訪れるなら、割り下で煮る関東風と、肉を焼いてから味付けする関西風の違いに注目してみましょう。
- 横浜では、すき焼きのルーツの一つとされる「牛鍋」を。味噌味や角切り肉など、店ごとの個性があります。
- 生卵が苦手な場合は、無理に使わず、店の人に相談してみてください。
- 群馬では、肉から野菜まで県内産の材料でそろえたすき焼きが楽しめます。
- 牛肉を避けたい場合は、注文前に確認しましょう。