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なぜタトゥーがあると入れない温泉があるの?

法律で禁止されているわけではありません。入れ墨と暴力団のイメージが結びついた歴史が、今も一部の施設のルールに残っているのです。

Illustration of a steaming private open-air bath at a snowy mountain inn in the evening
AI-generated illustration

ざっくり言うと

日本では、入れ墨(いれずみ、タトゥー)が長いあいだ暴力団(ヤクザ)と結びつけて見られてきたため、「他のお客さまが怖がる」という理由で入浴を断る温泉や銭湯があります。これは法律で決まったルールではなく、それぞれの施設が決めているものです。

国は2016年に、入れ墨があるという理由だけで外国人旅行者の入浴を断るのは適切ではないとして、シールで隠す、時間帯を分ける、貸切風呂を案内するといった対応例を施設に示しました。今は「全面禁止」「条件つきでOK」「制限なし」と施設ごとに対応が分かれています。

入れ墨の長い歴史

日本の入れ墨の歴史は複雑です。江戸時代には、全身に色鮮やかで細かな図柄を彫ることが、町火消(まちびけし、江戸の消防組)や職人などの間で流行しました。1827年ごろに出た歌川国芳の浮世絵『水滸伝』シリーズに描かれた、入れ墨をした豪傑たちの姿も、図柄に大きな影響を与えたといわれます。幕府は1811年や1842年に入れ墨を禁じるお触れを出していますが、取り締まりは長続きしなかったようです。

その一方で、江戸幕府は罪人の体に入れ墨を入れる刑罰(入れ墨の位置や形で、どこで罰せられたかが分かるようになっていました)も行っていました。入れ墨には「粋な職人の印」と「前科の印」という、正反対の意味が同居していたのです。

明治に入ると、新政府は1872年に入れ墨を禁止しました。1880年の刑法、1908年の警察犯処罰令でも禁止は続き、違反すると拘留や罰金が科されました。背景には、体を傷つけることを嫌う儒教的な考え方に加え、欧米から見て「文明的」な国であろうとしたことがあったとされます。禁止が解かれたのは、警察犯処罰令が廃止された戦後の1948年です。

なぜ「入れ墨=ヤクザ」になったのか

禁止が解けたあとも、入れ墨のイメージは良くなりませんでした。1960年代から任侠映画(やくざ映画)が数多く作られ、背中に入れ墨を背負った登場人物の姿が広まったことで、「入れ墨は暴力団のもの」という見方が急速に定着したといわれます。

今でも、多くの都道府県が青少年保護育成条例(未成年を守るための条例)で未成年への入れ墨を規制していて、1967年の愛媛県が最初だとされます。入れ墨を「大人が自分で選ぶもの」と位置づけ、慎重に扱う社会の姿勢がうかがえます。

さらに1992年に暴力団対策法(暴力団の活動を規制する法律)が施行されるなど、社会全体で暴力団を締め出す動きが強まりました。入浴施設が入れ墨の人を断る理由として、こうした暴力団排除の流れを挙げることも少なくありません。見た目で判断できる入れ墨が、分かりやすい線引きとして使われてきたのです。観光庁が2015年に行った調査では、回答したホテル・旅館の約56%が入れ墨のある人の大浴場利用を断っていると答え、約31%は制限なし、約13%はシールなどで隠せば利用可としていました。

国の姿勢と、今の温泉の対応

外国人旅行者が急増するなかで、この問題は注目を集めました。2014年には、日本を訪れた外国人の約3人に1人が温泉を旅行の主な目的の一つに挙げており、旅行会社には、入れ墨を理由に入浴を断られて戸惑う声が寄せられていました。2013年には北海道の温泉施設で、顔に伝統的な入れ墨を入れたニュージーランドの先住民族マオリの女性が入浴を断られ、大きく報じられています。

2016年3月、観光庁はホテルや旅館、温泉の業界団体に向けて通知を出しました。そこでは、入れ墨は宗教・文化・ファッションなどさまざまな理由で入れられていること、入れ墨があっても衛生上の問題はないことに留意するよう求め、入れ墨があることだけを理由に入浴を断るのは適切ではないとしています。そのうえで、シールなどで入れ墨を覆う(衛生的な入浴着を着る方法も考えられる)、手のひらサイズ程度の小さな入れ墨なら特に対応を求めない、家族連れが少ない時間帯を案内する、貸切風呂や専用風呂付きの客室を案内する、といった対応例を示しました。厚生労働省も各自治体に、不当な理由で入浴を断ることがないよう周知を求めています。

通知では、日本を訪れる外国人旅行者が4年間で836万人から1974万人へと急増したことにも触れています。また、外国人旅行者に向けては、日本政府観光局(JNTO)などを通じて、日本での入れ墨の受け止められ方を知らせていくとしています。施設と旅行者の双方に歩み寄りを求める内容だったわけです。

ただし、この呼びかけに法的な強制力はなく、最終的にどうするかは各施設の判断です。報道によれば、観光庁の呼びかけは外国人旅行者を対象にしたもので、入れ墨のある日本人の入浴を認めるよう求めるものではないと説明されています。

外国人が驚くポイント

海外ではファッションとして小さなタトゥーを入れている人も多いので、「花の小さなワンポイントでもダメなの?」と驚かれることがよくあります。施設側の本音は、入れ墨の意味を見分けたいのではなく、他のお客さまに一つ一つの違いを理解してもらうのは難しい、という点にあります。実際、観光庁の2015年の調査では、回答施設の半数近くが、入れ墨のある利用者について他のお客さまから苦情を受けたことがあると答えていました。

タトゥーがある人の温泉の楽しみ方

一番確実なのは、予約の前に施設へ問い合わせることです。観光庁の旅館紹介ページでも、タトゥーが気になる場合は旅館に問い合わせるよう勧めています。旅館によって「制限なし」「小さなものなら個別に相談」「貸切風呂や客室の風呂を案内」と対応はさまざまです。

問い合わせるときは、タトゥーの場所と大きさを具体的に伝えるとスムーズです。観光庁が示した対応例では、手のひらサイズ程度の小さな入れ墨で、ほかの入浴者に威圧感を与えないものなら、特別な対応を求めない方法が挙げられています。「手のひらより小さいタトゥーが腕に一つあります」のように伝えれば、施設側も判断しやすくなります。

小さなタトゥーなら、肌色のカバーシールで隠せば入れる施設があります。大きなタトゥーの場合は、貸切風呂(家族や友人だけで時間を区切って使えるお風呂)や、部屋に露天風呂が付いた客室を選ぶと、周りを気にせず温泉を楽しめます。ルールに納得できなくても、その場で係の人と押し問答をするより、対応してくれる別の施設を選ぶほうが旅はずっと快適です。

ヒント

  • 予約前に「タトゥーは大丈夫ですか?」と施設にメールや電話で確認しましょう。
  • 手のひらサイズ程度の小さなタトゥーなら、肌色のカバーシールを持って行くと入れる施設があります。
  • 大きなタトゥーがある人は、貸切風呂や露天風呂付き客室のある宿を選ぶのが安心です。
  • 施設の入り口に「入れ墨・タトゥーお断り」の掲示があれば、その施設のルールとして尊重しましょう。
  • 断られても口論はせず、別の施設を探すほうが気持ちよく旅を続けられます。

出典

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